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「もう、いっそのこと……」
不意にぽつりと、王がそう漏らした。
まるで、しばらく押し黙っていた反動かのような、やけに明るい声である。
「もう、いっそのこと、わしが行ってヤってしまうか?」
「いえ、いえいえいえいえ、陛下、何とぞ、それだけは……」
王の明るい思いつきを、側近が即座にたしなめる。
「何故じゃ?いかに世を滅ぼさんとする魔王とて、この世界の理(コトワリ)を統べるわしがでばれば、軽いもんじゃろ?」
「いえ、古来より魔王を征伐するのは勇者、と相場が決まっておりまするゆえ」
「なんじゃ、それは?誰が倒そうと、世が救われるならそれでよかろう?」
「しかしながら陛下。そうなさいますと天空王殿や龍神王殿が何と仰られますか……」
側近の言葉を耳にした王は、如何にも憮然と玉座に反り返る。
「ふん。この精霊王が統べる世界には勇者の一人もおらぬのか、と鼻で笑うであろうな」
「ならば陛下。やはりこちらも人の子を勇者として送り込むのが定石かと」
「しかしな、この世にそう都合良く『伝説のなにがし』やら『導かれし誰それ』やらがいるとは思えんが?」
「そんなものはどうでもよろしいのです」
側近の男はここぞとばかりに、その小さな身の丈を最大限に伸ばし両手を広げて力説する。
「どこの馬の骨だろうとも、精霊王陛下が導き、陛下がお力添えなされば、いっぱしの勇者になれるに相違ございません」
「そんなもんかのう」
「そんなものでございます」
雲の上か、地の底か。
このような会話が繰り広げられていることなど、ほとんどの勇者は知るよしもない。
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