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カンッ、カンッ、カンッ。
「ふう」
斧を振るう手を止め、俺は額に滲む汗を拭った。
夏草生い茂る今の季節は薪を集めるのも容易ではなく、火が欠かせない鍛冶屋の俺はこうして仕方なく木こりの真似事をするしかない。
とにかく刀鍛冶の窯というのはとんでもない高温高熱が必要で、当然燃料となる薪もとんでもない量が必要になる。
まあ、街に窯を持つ鍛冶屋たちは魔導師に依頼して魔法の炎を点してもらうらしいが、あいにくこんな山奥の田舎鍛冶屋にはそんなツテはない。
そんなわけで今日も俺は、朝は木こり昼は鍛冶屋の山奥ライフを満喫中ってわけだ。
「ふう、こんなもんか」
あらかた薪を集め終えた俺は、背負子を背負って帰り支度を始める。
背中にはどっしりとした薪の重量を感じるが、これで足りるだろうかという懸念もなくはない。
なぜならここ最近、急激に武器の発注が増えてきたからだ。
何でも、近頃はそこいらを徘徊する魔物どもが凶暴化してきたらしく、近隣とのいざこざで忙しい王宮でも、対応に苦慮しているらしい。
平和な世は刀鍛冶とは名ばかりで、包丁やら鉈やらばかりを打ってきたわけだが、世の中が物騒になると途端に懐が暖まるのだから、武器職人なんてのは因果な商売だよな。
事実、三年ほど前、親方が魔物に殺られて俺がこの窯を継いだ頃と比べると、ここ数ヶ月で収入は倍以上にもなってるんだから。
そんなことを考えながら家路を歩いていると、俺の足はいつも通る泉のほとりへと差し掛かった。
「少し、汗でも流していくか」
誰にともなく呟き、荷をほどこうとしゃがみこむ。
すると、下を向いた拍子に俺の目は、草むらに光る何かを発見した。
今思えばあれだったな、この時に無視しておくべきだったんだよな。
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