12423人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄さん!走って!」
そんなピンチを救ってくれたのは、二人の女性だった。
いや、一人は小娘か。
とにかく、JKが放った束縛の魔法が、ドラゴンの体を一瞬硬直させる。
その隙を突き、俺はなんとか古竜のわき腹をかいくぐって後背へと脱出することができた。
「助かった。グッジョブ、JK」
「今忙しいから、ちょっと黙っててよね」
礼を言ったのに怒鳴りつけられるという変わった体験に目眩を覚える俺だったが、それには構わずJKは束縛の魔法を五度、六度と重ねがけしていく。
「ソーン・バインディング!」
その度に緑の光線が迸り、古竜は一瞬その動きを止めるが、どれも長くはもたなかった。
「あはは。無駄や、無駄や。ウチの鱗は魔法を低減するんや。そんなヘナチョコ、効かへんわ!」
『低減』ということは一応効かないことはないのだろうが、十分の一秒にも満たない間動きを止めたところで、はっきり言って意味がない。
「ありゃりゃ、そうなんだ。どうする?お兄さん」
「そうだな。とりあえず、あんたの出番はもう無いだろうな」
「ええー!なにそれ、やだー!」
俺がぐずつく小娘を無理矢理横穴へ押し込み退避させると、代わりに目の前を金糸のように美しい髪が彩った。
「勇者様。加勢いたしますわ」
白魚のような拳を握りこみ、シルヴィアが健気に構える。
「気持ちはありがたいが大丈夫だ。楔はあと一つだしな」
それに、シルヴィアが戦うとなると事後処理が甚だ面倒なので、出来ればご免被りたいという本音もある。
「ですけど、古竜が警戒してしまったようですわ。近寄って来なくては、誘導も出来ませんわよ」
確かに、ドラゴンは方針を転換したのか、闇雲に向かってくることをやめ、ホールの中央でこちらの様子を窺っている。
そろそろ、安い挑発も効力が及ばなくなったといったところか。
最初のコメントを投稿しよう!