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「わたくしに、お任せください」
『どうするつもりだ?』と問う間もなく、シルヴィアは瞑想するように目を閉じた。
そしてすぐに、その輝くばかりの金髪が、逆巻くほどに振り乱れる。
「もう一人のわたくしに、力を借りました」
「みたいだな」
やれやれ、これでまたこの世から、酒樽が五つ、六つ消えることになりそうだ。
酒好きだが善良な俺は、ちょっといたたまれなくなった。
「で?どうするつもりなんだ?」
「最後の楔を、わたくしが打ち込みます」
なるほど、その手があったか。
伝説の酒豪『ヨッパ・ライドオン』の力を得たシルヴィアなら、岩盤に亀裂を入れることも不可能ではないかもしれない。
実はもうすでに、天井からは細かい破片がパラパラと落下してきている。
崩落が近い証だろう。
あともう一撃でかいものを入れてやれば、それは確定的に思えた。
「じゃあ折角だし、頼むとするかな」
「はい。お任せください」
俺が午後の紅茶でも頼むかのように依頼すると、シルヴィアは溌剌と答えながら例によって『見よう見まね正拳突き』の構えをとった。
そしてすぐに、気の抜けた気合いの声とともに右拳を突き出す。
「えい!」
可憐なる声とは裏腹に、石灰岩の壁にめり込む剛打剛拳。
そしてその一撃はなんと、三本の亀裂を岩盤に生じさせた。
「はあ?なんやねん。壁なんか殴りよってからに」
怪訝に感じドラゴンは警戒を強めるが、俺たちはそれどころではない。
「みんな!逃げろ!」
と、転がるようにホールから伸びる横穴へと逃げ込んだ。
これで作戦は大成功。
あとは走る亀裂が天井へと到達し、『生き埋めドラゴン』を作り上げるのを待つばかり。
誰もがそう確信し、勝利の予感に顔が綻んだ。
だが、その直後。
俺たちは、アメジストドラゴンの真の恐ろしさを知ることになる。
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