12423人が本棚に入れています
本棚に追加
「あはは。なんや、天井を崩そうとしてたんかいな。しょうもな」
そう吐き捨てるとマニラは、全身を小刻みに震わせてトサカの紫水晶に淡い光を溜め込み始めた。
そして今まさに崩落せんとする天井へと首をもたげ、口を開いてブレスを吐き出した。
だがそのブレスは、先ほどまでの火炎の息ではない。
見たままを言うならば、紫色の霧のようなブレスだ。
「ああ!そうでした!」
その光景を横穴から覗き見ていたマルグレーテが、急に大声を発した。
なんとなく続きを聞きたくない気もしたが、俺は先を促す。
「あれはアメジストドラゴンの得意技、『結晶化ブレス』です。付着したものを紫水晶で覆い尽くす、恐ろしい攻撃なのです」
「ほう、それで?」
確かに、何でもかんでも紫水晶で密閉しちまうとは、恐ろしビックリな攻撃に違いない。
だが、生き埋め寸前のこの状況でそれが役に立つのだろうか。
「鈍いですね、お前は。あれを見なさい」
と言ってマルグレーテが指差したのは、ホールの天井。
ぐらぐらと揺らぐ岩盤が、落下直前に停止した瞬間だった。
「あん?何で止まるんだよ?」
事ここに至っても、俺には目前の現象が理解できない。
「そっか。結晶化ブレスで、亀裂を補修したんだ」
という小娘の呟きを聞き、ようやく頭脳が現実に追いついた。
「なんだよ、それ!反則じゃねえか!」
言っても仕方の無いことだが、言わずにはいられない。
片端から亀裂を補修する能力があるのなら、『洞穴を崩落させて生き埋めにする』という作戦自体が用をなさなくなるからだ。
「嘆いておっても詮あるまい。ここは、態勢を立て直すかの?」
「ええ。残念ですが、一時退却しか無いでしょうね」
マロとマルグレーテの言う通り、いけると踏んだ作戦を全否定されたのだから、ここは退くしかない。
だが、勝ち目を失った俺たちを簡単に見逃がしてくれるほど、竜人族長は甘くはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!