ある晴れた昼下がり

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「あの…カスミさん、何をしてらっしゃるのですか?」 「あら、メイくん。どうしたのそんなよそよそしく。いつも通りカスミって呼び捨てにしてちょうだい」 「まぁそれは置いといてだな、一体何してるんだ?」 「見て分からないのなら聞いても分からない、というのが私だけれど、メイくんには特別に教えてさしあげてよ。 私の視線の先をご覧なさい」 もう少し角度を変えれば日陰になるのに、なぜか俺の彼女、葛原 花澄(ツヅハラ カスミ)は太陽と直接対決しながら何かを眺めていた。 何をそんなに一生懸命見つめているのか興味を持った俺は、カスミの横に立ち視線を追う。 その先にいたのは、先ほど俺が勘弁して欲しいといった太陽に次ぐ夏の風物詩。 蝉。 そう。あのミンミンとかジージーとかスイッチョンとか訳の分からない声で鳴く蝉だ。 蝉の鳴き声は地方によって聞こえ方が違うらしい。これは日本では犬はワンワン、アメリカではバウバウといったような感じなのだろうか。 と現実逃避はそこまでにして、俺はもっともな疑問をぶつけてみる事にした。 「あの~、何故蝉を眺めておいでなのですか?」 「いつもと話し方が違うわねメイくん。いつもなら何眺めてんだこの野郎、と私を蔑むなり罵倒なりするというのに」 「そんな事一回も言った事ないだろ。それより、質問の答えになってないぞ」 「私とした事がうっかりしていたわ。何故蝉を眺めているのか、答えは簡単。そこに蝉がいるか…」 「どこいらの登山家みたいな答えならいらないぞ」 「さすがメイくん…私の事なら何でもお見通しなのね。ちょっと濡れてきちゃうわ」 「昼間っからそういう話はやめろー!!!」
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