福井

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訪れる、という感覚も消えて、ふたりして旅しているような、そんな錯覚に陥るほど、肌に馴染んだ先生のお部屋のあれこれ。 上等なリネンの感触の柔らかさ。枕元に置かれるチョコレートの甘さ。分厚いカーテンの光を遮る確かさ。 …やわらかなカーテンが、それでも世界と隔絶すること。 上品な花の香りのバスアメニティ。だんだん好きになってきた、硬水のミネラルウォーター。 エレベーターホールから続く絨毯の深さにも、馴れてきた。 なのに、先生のお部屋までの距離感は、いまだにつかめなくて、いつもドキドキ、ドキドキしながら、先生に手を引かれている。 今夜も…。 バーを後にして、アルコールのせいではなく、上気した頬で、先生に手を引かれて、辿り着いた。 カードキーが灯す、緑の小さな明かり。 当たり前の様に、龍一先生が支えるドア。 2歩、先に進んで、先生が後ろ手に鍵を掛けるのを待つ。 かちゃり、という音と、とん、という音をさせたその左手が、そのままワンピースの背中に伸びて、簡単に小さな首もとのホックを外し、ファスナーが、腰まで下ろされる。 両手で掴んだ腰を、自分に引き寄せて、僅かに生まれた、肌が空気にさらされた場所に…ホックのあった位置に、顔をうずめて、ささやくように、唇を這わせた。 …だから、私、そのまま、キスもなく、立ったまま、求められる、と思った。 そう思うと、想像したわけでもないのに、そう…もしも私が男だったら、固さを増しただろう感じに、熱を発する。 先生は、私の背中にぴたりとくっついて、私を身体全体でリビングスペースへと押しやりながら、ワンピースの肩を左右一緒に、外す。 半袖から、簡単に、腕が抜ける。 そのまま、下に脱がしていって、膝下まで下げると、ワンピースから手を離した。 足元に、黒い布地が溜まる。 先生は、後ろから、膝で私の片膝裏を押し曲げ、私の右足が、黒色の輪を抜ける。 着地の体重移動で、よろめく私を軽々と支え、浮いた左足の下から、ワンピースを拾い上げる。 片手を伸ばして、ソファの背に掛けてる。 そうして、今、初めて気づいた、というふりをして、私の上半身を両手でなぞりながら、 「どうしたの? すごくセクシーな下着なんて着て…」
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