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左の耳朶をかじりそうに、優しく歯が当たる。
…だから、これ、先生の前で身に着けるの、避けていたのに。
旅先だし、選択の余地がなくなって、仕方なく選んだ、レースづかいのセット。
勿論、いざという時の為に、持ってきたわけじゃない。
なのに。
「詠子ちゃん、一人旅とか言って、これ、誰に見せるつもりだったの?」
「あ…」
甘噛みされて、答えることなんて、出来ない…。
「答えられないんだ…。僕に、隠しごとするつもり?」
キャミソールの裾から侵入した、先生の右手が素肌に触れてきて、脇腹を経由して、胸の下まで上がってくる。
…ただ、それだけの動きのはずなのに、波に翻弄されてしまう。
左耳が解放されて、安堵の息を吐く隙もなく、今度は右耳が攻められる。
熱い息遣いが、思考を奪い、先生だけを感じさせる。
龍一先生は、もう何も言わない。唇は、話すという役割を捨てて、私の、今は首すじから、っん…。
先生の戻ってきた右耳が、間近く、唇と舌の立てる音を聞く。
先生の与える刺激と、リアルすぎる濡れた音が、潮を満ちさせていく。
私の吐く息すべては、熱を帯びて、切なさに、口もとに添えていた右手の、人差し指を咥える…。
なのに、先生の手が、胸のすぐ下まで来ていた、右手が、キャミソールから素早く抜け出て、…私のその指をつかまえて、私の口中から引き抜く。
「危ないから…」
再び、ささやきを取り戻した、先生の唇が、同じ耳もとに告げると、
「どう…し…て?」
途切れながらでしか、言葉にならない、私の、たった一言が終わらぬうちに…。
いつの間にか、下着になっていた、先生の腰の辺りが、身をかがめて、グッ、と押しつけられる。
私が、逃げないように、背後からきつく両腕を回して。
…確かに、私、その性急な行為に、自分の指に歯を立ててしまっただろう。
「でしょう? 危なかったでしょう?」
龍一先生は、刺激と呼ぶには大きな、波動を繰り返しながら、なのに、穏やかな口調で。
私は、振り返りも出来ず、小さく頷くことで精一杯なのに。
「…先生は、余裕があるの?」
口惜しいのか、ちょっと癪なのか、自分でも分からない。
「ないよ? これでは、僕の状態が、感じられない?」
そう言うと、さらに腰を押し当てた。
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