白鳥の味噌汁

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「あとどのくらいあるの?」 「一時間ちょっと、かな」 琥珀の言葉を聞くや否や、千鶴は手を合わせて提案する。 「じゃあせめてお風呂だけでも入っていきましょ! うちの浴槽は大人数用で大きいし」 「いや、でも会合に出すお茶菓子とかを準備しなくてはならないし…」 戸惑う琥珀を他所に、千鶴は次々に指示を出していく。 「つばめとすず、お風呂と支度をユキに言って準備してもらって! 隼人と梟でお茶菓子の準備!」 「え、ちょ、ちょっと、ちづさん…」 琥珀は千鶴に話しかけて止めようとするが、時すでに遅し、四人は準備のために部屋を出て行ってしまった。 こういう時の千鶴の強引さはすさまじい。 琥珀ではもう止めることはできない。 「車で送れば余裕で間に合うわ! 料理とかは鷲太朗を家に連れて行っていいから!」 「は!?」 声を上げたのは鷲太朗だ。 明らかに動揺している。 そして、鷲太朗は千鶴の腕をひくと、部屋の隅へ行って小声で会話する。 「どうして俺なんだ?」 「だって車を運転できるのあたしか鷲太朗しかいないじゃない」 幼馴染の鷲太朗でも、年頃の女の子の家に行くのは憚れるのだろう。 しかし、千鶴はそんな気遣いができる人物ではない。 千鶴に負けじと鷲太朗も言葉を続ける。 「だったら、ちづがやればいいだろう? 女同士のほうが何かと都合が良いだろうし」 「だってあたしじゃ、流石にハクを抱きかかえるなんてできないし」 「俺が魁に殺される」 「へーきよ!ハクのことを鷲太朗に頼んだのは魁なんだし。 鷲太朗も魁に頼まれたんだから、ちゃんと最後までやってあげなさいよ」 これには、鷲太朗も言葉を詰まらせる。 ここぞとばかりに千鶴は言葉を掛ける。 「あたしが行ってもいいのよ。 別に料理作って、移動のお手伝いするだけだし」 ふと、鷲太朗は思った。 千鶴に行かせたら、千鶴の手料理を琥珀が食べることになると。 それは避けなければならない。 そんな鷲太朗の頭の中の思考を知る由もなく、千鶴はさらに言葉を並べていく。 「ハクはたぶん一番、鷲太朗を信頼しているし」 そう言ってから急に真面目な表情になる。
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