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「それに、今日のお昼に言ってたでしょう?
白鳥流の中の不穏な動きについて。
探りを入れる良い機会じゃない。
探りはあたしより、鷲太朗の方がうまいでしょ。
それに、今の状態でハクを放っておいて、鷲太朗が平気なの?」
鷲太朗は彼女の言葉の意味が理解しきれないのか、眉をひそめる。
「…は?」
「絶対後悔するわよ。
魁の話からすると、今からある会合が穏やかにいくわけないじゃない。
もしかしたら、ハクがひどい言葉を受けるかもしれないし、ひどいことされるかもしれない。
ハクが傷つけられるのを、鷲太朗は黙って見てられるのかって言ってるのよ」
黙り込んだ鷲太朗の背中を千鶴は思い切りたたく。
「じゃあ、頼んだわよ!」
「…分かった」
鷲太朗は渋々頷いたが本心としてはきっと、そうしたかったに違いない。
高校生の女の子に対して、という彼の常識と、魁の想い人である彼女を支えるのは、本当は魁が一番やりたいであろうに、という彼の気遣いが変に邪魔をしてしまっているのだ。
「別にそんなしかめっ面しなくても平気よ!
魁には上手く言っといてあげるし、別に一緒にお風呂に入れって言ってるわけじゃ――」
「ちづ!」
愉快に冗談を披露する千鶴の言葉を、途中で鷲太朗は遮った。
「赤面しないでよ、大人が」
「五月蠅い」
千鶴の言葉に平然と答えるフリをしながら、鷲太朗は長い前髪で顔を隠した。
意外なことにも、こういった冗談には鷲太朗は滅法弱いのだ。
千鶴はにやにや笑いながら、振り返ると琥珀へ話しかける。
「話がまとまったわよー、ハク」
「あ、はい」
足が動かない琥珀は一人ちょこんと座って待っていた。
「今日は取りあえず、鷲太朗にハクのこと頼むから」
「え?」
「寝るときに返してくれればいいわよ」
「人を物みたいに言うな」
鷲太朗のツッコミをスルーして、千鶴は琥珀にどうかを尋ねた。
「…正直、その、鷲に迷惑じゃないなら…すごく助かるというか、安心です」
琥珀のこの言葉で、鷲太朗も決心を固めたのだろう。
千鶴が横目で鷲太朗を見ると、鷲太朗は黙って頷いた。
「じゃあ、決まりね!」
千鶴はそう言うと、つばめとすずめが入ってきた。
「準備できました」
つばめのその言葉を聞いて、すずめと千鶴は琥珀を引きずるように連行していった。
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