白鳥の味噌汁

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琥珀がお風呂に入っている間に鷲太朗はスーツに着替えていて、スーツで車を運転する姿は、妙に大人っぽく見える。 「魁なら平気だ。 ハクが思っているより、あいつは出来る男だ。 会話術も、作法マナーも、外国語も、経済学も、完璧にこなせる。 何より、あいつは演技力がある。 社会で人と上手く接して、交渉していくには、演技力は大切なポイントだ」 「そうなのか?」 「ありのままを受け入れてくれる鴉組と、周りの社会は違う。 今度から、魁の仕事に婚約者として付き添うことが出てくるだろう。 その時に分かる」 「…そうか」 鷲太朗は淡々とした口調で話しているが、琥珀は少し悲しくなった。 ――偽りを作ることに慣れてしまうなんて、寂しすぎる。 琥珀はそう思ったのだ。 しょうがないこと、その一言で済ましてしまえば、それで終わりだが、琥珀はその一言で悲しみを拭えなかった。 魁は学校でも偽り、社会でも偽り、唯一素の自分をさらけ出すことのできる鴉組の中でさえ、若頭という立場を気にしなければならないのだ。 「魁を自由にしたい」 「…ん?」 「せめて、わたしや幹部の皆の前にいるときはありのままの魁でいて欲しい。 我儘を言うならば、学校でも。 ありのままの魁で、普通に平凡な学校生活を送って、楽しんでほしい」 琥珀の頭に、鷲太朗の手が乗った。 信号がちょうど赤だった。 鷲太朗は琥珀の頭を撫でただけで、言葉に出すことはしなかったけれど、きっと彼もそれを願っているのだろう。 琥珀は心の中で決意した。 安息の場を与えてもらっている代わりに、彼に3年間の自由をあげようと。 彼がそれを望んでいるかは分からない。 それでも、琥珀は知ってほしかった。 普通の生活を。 純粋に学生生活を楽しむことを。 高校の3年間は今しかないのだ。 反対車線の車のライトが流れ星のように流れていった。      *   *   * 会合が始まる時刻は近づいている。 鷲太朗が手伝ってくれたこともあり、何とか間に合わせることができた。
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