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男を家に連れ込んでいる、と変な誤解を受けてはいけないと、琥珀は鷲太朗に他の部屋で待ってもらうようにお願いした。
鷲太朗に対して、そんなやましい気持ちは一切ないし、鷲太朗も琥珀に対して一切そんなことはない。
しかし白鳥流が揺らいでいる今、どんな事象も、琥珀の立場を危うくする要因になりかねないのだ。
鷲太朗もそれを理解してくれているのか、何も言わずに了承してくれた。
琥珀の前には屈強な男たちが揃っている。
動作は優雅で美しいが、瞳はぎらぎらと光っている。
琥珀は息を吐くと、口を開いた。
「これより、白鳥流の会合を始めさせていただく!」
空気がより一層引き締まった。
琥珀は普段より低い凛とした声で話し出す。
無意識に身に付いたこの発声は、目の前の人たちを黙らせて聞かせるための術であった。
「まず、ご足労感謝する。
足がこのような状態でして、大したおもてなしも出来ずに申し訳ない」
琥珀が詫びを入れると、何人かはあざ笑うかのような表情を浮かべる。
しかし彼女にとってそのくらいは慣れている。
傷付いた表情をしたほうが、彼らの思うつぼだ。
琥珀は何でもない風を装って言葉を続ける。
「本日は谷賀茂(ヤガモ)殿から会合開催の願いでがあったため、開かせていただいた」
琥珀がそう言って谷賀茂に目をやると、彼は目で頷いて口を開く。
「本日は、琥珀様に許嫁ができたと噂を耳にしたものですから、真偽のほどを確かめたく、このような場を設けていただいた次第でございます」
一瞬でどよめきが広がる。
ざわざわとした空気の中、琥珀はしまった、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
谷賀茂がどこから情報を仕入れたのか分からないが、この情報を皆に知られるのは分が悪すぎる。
本人に直接訊ねることなく、このような公の場で発言するところが如何にも陰湿な彼らしい。
息子が握るはずであった白鳥流の当主の座を、琥珀に奪われたことを、彼は未だに根に持っているのだ。
「どういうことですか、白鳥殿!」
「ご説明を!」
何人かが声を荒げるなか、琥珀は瞳を閉じて頭をフル稼働させていた。
* * *
一方その頃、鷲太朗は隣の部屋にいた。
琥珀に迷惑を掛けないようにと、何も言わずに彼女の提案を了承したが、鷲太朗自身にも任されていることがある。
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