白鳥の味噌汁

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白鳥流の不穏な動きを見せる人物を把握すること、そして琥珀が会合で傷つかないようにすること。 それが今の鷲太朗の任務である。 そのために、琥珀には黙って隣の部屋にいるのだ。 鷲太朗ならば、気配を消すのも上手い。 鷲太朗側の世界の人間じゃなければ、早々気付くことはないだろう。 物音を立てぬように気を張り巡らせながら、隣の部屋の会話に聞き耳を立てる。 「――感謝する。 足がこのような状態でして、大したおもてなしも出来ずに申し訳ない」 どうやら会合が始まったようだ。 琥珀の言葉に嘲笑の声が聞こえて、鷲太朗は思わず怒りを覚える。 怒りを抑えていると、男の声が聞こえた。 「本日は、琥珀様に許嫁ができたと噂を耳にしたものですから、真偽のほどを確かめたく、このような場を設けていただいた次第でございます」 この言葉に、鷲太朗は一瞬思考を止める。 まさか、白鳥流に言っていないとは思っていなかったのだ。 しかし考えてみれば、琥珀がそうしたのも頷ける。 鴉組の若頭と許嫁の関係になったなんてことを、堅気の人間に言えるわけがない。 琥珀がそんな方面と繋がりを持って力を得ることを恐れて反対したに違いない。 契約上で偽りの許嫁なんて説明をできるわけもないのだから、彼女が黙っていたのは賢明な判断であった。 しかし、この情報が外へ、しかも堅気の人間の方へと漏れたのは予想外だ。 鴉組のような大きな極道の組が、そう簡単に情報を漏らすわけがない。 今話していた男が、金丸組とつながっているのかもしれない。 鷲太朗は警戒しながら再び、隣の部屋に意識を向ける。 隣の部屋は騒めき立っている。 何人かの男が琥珀を責めるような口調で問い質していた。 扇を開く音がして、突然静寂に包まれる。 音しか情報がない鷲太朗は、何が起こったのだろうかと、神経をとがらす。 静寂の中、琥珀の声が再び聞こえた。 「鴎巳敬親殿…」 「それは、初耳だなぁ、オジョーちゃん」 声しか聴いていないが、鷲太朗は直感する。 この男とは相いれないだろう、と。 そんな鷲太朗の憶測を他所に、隣の部屋の会話は進んでいく。 「俺という許嫁がいながら、どういうこと?」 鷲太朗は思わず声をあげそうになった。
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