白鳥の味噌汁

32/40
前へ
/221ページ
次へ
ようやく鎮まったと琥珀は息を吐く。 しかし何人かが扇で口元を隠しながらぼそぼそと喋り出す。 琥珀がどのように動いても必ず陰口を叩く者は出てくる。 それを理解し、陰口に対抗しても何の利益もない、と幼いころから学んでいる琥珀は何も言い返さず、ただ受け流すように聞いていた。 「…クロウ・カンパニーって言ったら、ホテル業界のトップではないか」 「どうしてそのような御曹司と白鳥殿が?」 「どうせ、色仕掛けでもしたのだろう」 「はべらせているのか……御曹司の方も災難だ」 琥珀は拳を握りしめ、波が静まるのを待っていた。 波は新たな波を生み、大きくなっている。 「いや、あちらが白鳥の名を利用しようと企んでいるのかもしれない」 「どちらにせよ、白鳥様は何をお考えになっているのだか」 「これだから女は」 一番琥珀が嫌いな言葉だ。 白鳥流の当主を罵るならともかく、魁のことも貶し、さらには女と言う理由で片付けようとする。 悔しさで唇を噛みしめると、鉄の味が口の中に広がった。 今の琥珀には耐えるしかないのだ。 波が静まるのを待ち、波に流されぬよう立ち続けるしか、力を付けていない琥珀にはできない。 波が静まり始めたところで琥珀は最後の仕上げに入る。 まさしくイチかバチかの大勝負だ。 「しかし、わたしが心から彼を思っているのは本当だ。 それだけは……信じてほしい」 嘘っぽくなっていなかっただろうか。 我ながら白々しい台詞だ。 「そう簡単に信じられるわけないですよ、琥珀様。 俺たちはアンタがそんなおっきいところの坊ちゃんと付き合うことで、変に権力を持たないかを危惧している訳で、アンタが本気かはべらしているだけなのかはどうでもいいんです」 あっさりと毒を吐いたのは鳩山透(ハトヤマトオル)。 白鳥流の分家である、鳩山流当主だ。 20後半の若さで当主になっただけの実力はあるが、若さゆえに権力への執着心が強く、谷賀茂に取り入ろうとしている。 今回の会合でも谷賀茂の隣に座り、仮面のような笑みを浮かべている。 頭の中では冷静に彼の情報を浮かべながらも、傷ついたような演技をしてみせた。 目を伏せ下唇を噛締める仕草をすれば、琥珀の美貌を持ってすれば、数人はこれで黙り込む。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

601人が本棚に入れています
本棚に追加