白鳥の味噌汁

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仕上げは、彼女に任せよう。 「先ほどから黙っていれば、ずけずけと。 貴方たちに乙女心を理解しろとは言いませんわ。 しかし、琥珀の乙女心を汚すことはこの私が許しません!」 立ち上がり、そう声を張ったのは比榛あかね。 白鳥流の中で数少ない琥珀の理解者の一人だ。 「鳩山様、それ以上琥珀を侮辱するようでしたら、私がお相手いたしましょう。 若い者同士、対等に話し合うことができますでしょう?」 この時のあかねの笑顔ほど怖いものはないだろう。 鳩山は冷汗を浮かべて黙り込んだ。 琥珀はこれを狙っていたのだ。 あかねは琥珀の理解者である上に、女性であることを誇りに思っている。 そのため、琥珀の“恋”ともなれば、味方にならないわけがないと予測したのだ。 姉のように慕っている彼女を利用するのは心が痛むが、自分の力ではどうしようもないのだ。 「――そうだねぇ。 儂も比榛さんの言葉に賛成だよ」 この声に一瞬で空気が変わった。 怒りを露わにしていたあかねでさえも、静かに席に戻ったほどだ。 口を開いたのは白鳥流の重鎮で、現在は琥珀の保護者役を務める木菟惣一郎だ。 あかねだけでなく惣一郎までもが、琥珀の味方についてくれるとは、嬉しい誤算だ。 「それに、若い者の恋路にあれこれ口を挟むのは無粋ってものじゃないかね。 文化人である皆に、そのような優雅でないことはしてほしくないねぇ」 彼のこの一言で今回の会合は収束したのであった。      *   *   * 会合はお開きとなり、室内はがらりとしている。 「木菟殿、あかねさん、今日の会合ではありがとうございます」 「琥珀、いいんですのよ! 乙女の恋を貶すなんて、豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえばいいんです」 頭を下げる琥珀の肩を、あかねは抱く。 あっさりと怖いことを言っているが、琥珀は思わず笑った。 その笑みは彼女を利用した罪悪感を隠すためだ。 あかねも部屋から去ると、惣一郎は手を琥珀の頭に乗せる。 「琥珀が恋なんて、保護者としては放っておけないねぇ。 是非、今度紹介してほしいものだよ、琥珀。 もしかして、隣の部屋にいる彼かい?」 「…え?」 琥珀が首をひねると、襖が開いた。 「申し訳ありません、挨拶が遅れたうえに、盗み聞きをしていたなんて」 「鷲!?」 琥珀は驚いて目を丸くする。
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