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いつから隣の部屋にいたのだろう。
惣一郎は驚いた様子もなく、笑みを浮かべたまま鷲太朗に話しかける。
「いやいや、琥珀を心配してくれたのだろう?
琥珀、彼が君の…」
「あ、いや、木菟殿、こちらは――」
「冠と申します。
私はクロウ・カンパニーの社員でして、ご多忙の烏羽様の代わりとして、彼女の付き添いをさせていただきました」
状況を飲み込めない琥珀に代わり、鷲太朗がスラスラと説明をしてくれる。
こういう状況の鷲太朗は、普段の無口な彼とは打って変わってとても饒舌だ。
「保護者の木菟と申します。
琥珀を宜しく頼みますよ」
惣一郎はそう言って、最後に琥珀にほほ笑むと去って行った。
部屋に二人きりになると、琥珀は尋ねる。
「聞いていたのか?」
「すまない、約束を破って。
まさか気付く人がいるなんて思ってなかった」
鷲太朗が謝ると、琥珀は俯いて顔を振る。
「いや、ただ…あまり聞かれたくない話だった、から…」
琥珀はさっき魁が演じることに慣れていることを悲しい、と感じた。
しかし自分もそうなのだ。
演技をせずに、あそこにはいられない。
まだ信頼も得ず、力も持たないただの高校生である琥珀には、惣一郎が羨ましかった。
惣一郎のような力が欲しい。
一言で皆を納得させるような、信頼を得られるような、そんな人になりたい。
琥珀は惣一郎がある人と少し重なっていた。
俯いたまま鷲太朗に話し出す。
「さっき、会合の時に、魁を思い出していたんだ。
わたしを鴉組の皆に紹介する会合の時、魁は『惚れた女だから』なんていう、はちゃめちゃな理由で、皆を納得させただろう?
羨ましい。
彼のように強くなりたい」
無意識のうち声が震えた。
悔しかった。
他者を利用しなければ、自分の大切なものを護れない弱い自分が。
「鴉組は馬鹿ばっかりだから。
固い理由を言うより、ああ言ったほうが納得する」
鷲太朗はそう言ってくれたが、そんなことはない。
たった一言で皆を信じさせる魅力が彼にはあるのだ。
信頼の上で成り立っていることなのだ。
それが羨ましい。
嗚咽を漏らしそうになって、琥珀はまた下唇を噛んだ。
そんな琥珀の頭を鷲太朗はやさしく撫でた。
それがきっかけとなり、タガが外れたように琥珀は泣き始めた。
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