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祖母が亡くなり不安定な時期に、いろんな問題が立て続けに起こっているのだ。
か弱い十六歳の女子が抱えきれるはずもない。
鷲太朗は何も言わず、ただ琥珀の頭を撫で続けた。
魁と琥珀が共に競いながら走るならば、鷲太朗は数歩後ろを走ろう。
時々後ろから急かして、たまには少し背中を押して、二人の歩幅を合わせる。
それが自分の役目だと彼は思っている。
今は彼女の背中を押すときだ。
* * *
琥珀が泣き止み、落ち着いてから鷲太朗は料理を作った。
大したものは作れない、と言って彼が作ったのはオムライスだった。
「懐かしい」
いただきます、と手を合わせた後、琥珀が一番最初に言った一言だ。
昔、母の日に二人で作ったのだ。
琥珀は幼かったからおぼろげにしか覚えていないが、卵は破けケチャップライスは焦げた決して美味しくはないであろうオムライスを、琥珀の母と鷲太朗の母は嬉しそうに美味しそうに食べてくれた。
あの時のオムライスよりずっと美味しそうなオムライスだ。
「覚えてた?」
「うん、ちょっとだけだけど。
母の日に二人で作るって言って、お父さんとカンちゃんパパが後ろで不安そうに見てたのとか。
お母さんとカンちゃんママが、おいしそうに食べてくれたのとか」
そう言って琥珀はオムライスを頬張る。
美味しくて思わず頬が緩む。
「美味しい」
「作り甲斐がある」
そう言いながら、鷲太朗は琥珀の頬に付いたケチャップライスをとる。
少し恥ずかしかったが、琥珀はどこか嬉しかった。
一人の食事は味気なくて、こんなちゃんと食事をとったのは久しぶりだった。
「ねぇ、カンちゃん」
「どうした」
「今日、魁と梟くんが二人で何処かへ行ってたんだ。
気にするのはおかしいんだろうけど。
なんだか…」
「仲間外れにされてる気分?」
図星をつかれた。
琥珀が素直に頷くと、鷲太朗は微笑んだ。
「平気だ」
それ以上は鷲太朗は口を開かず、琥珀も問うことはしなかった。
ご飯を片付けると、鷲太朗は帰って行った。
「おやすみ」
たった一言、彼はそう言って帰って行ったけれど、琥珀はなんだか久しぶりによく眠れる気がした。
* * *
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