白鳥の味噌汁

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鷲太朗が烏羽家に帰ると、魁はパソコンと向き合っていた。 「ただいま」 「おう、琥珀は?」 鷲太朗に気付いた魁は伸びをしながら、琥珀のことを尋ねる。 やはり心配だったのだろう。 「安静にしていれば数週間で治る。 食事会は大丈夫だったか?」 「問題ない。 相手と良い契約が結べそうだ」 高校生と大学生の会話とは思えない内容だ。 鷲太朗はコーヒーを淹れると魁に渡す。 「魁、そんなに心配なら電話でもしてやれ」 彼の提案に魁は分かりやすく動揺して、カップに入ったコーヒーを零しかける。 そんな魁を愉快そうに見ながら、鷲太朗はコーヒーを飲んだ。 「ハクとの距離が掴めず悩んでるんだろうが、ハクも同じだ。 お前や鴉組のみんなとどのくらいまで近づいていいのか悩んでいた」 彼の言葉に魁はハッと顔を上げる。 そして少し気まずそうに顔を反らすと、立ち上がる。 口を尖らして、言い訳をする子どものように話し出す。 「便所行くだけだからな」 「はいはい」 鷲太朗は心の中でそう言うことにしといてあげよう、と思いながら頷いた。 彼は素直じゃないが、不器用すぎて分かりやすい。 魁は外へ出ると、縁側に腰掛けた。 梅雨もそろそろ終わりなのだろう、雲の隙間から月光が漏れている。 一応周りを確認してから携帯を取り出すと、電話帳に登録された番号を開く。 柄にもなくちょっとためらいながらも、息を吐いてコールボタンを押した。 無機質なコール音が耳に響く。 5つ目のコール音で、もしもしと声が聞こえた。 「もしもし、魁? どうしたんだ?」 電話で聞く声はいつもと少し違う気がする。 「その…ケガは大丈夫か?」 「あぁ、おかげさまで。 雁屋さんに診ていただいたから、もう大丈夫」 月は見えては隠れを繰り返している。 「そうか…」 「魁、ありがとう」 突然の言葉に数回瞬きをする。 電話越しの琥珀はいつもより素直な気がする。 「学校で目立つの嫌がっていたのに、わたしのために…ありがとう。 あと、ごめんなさい、心配かけて」 「あ、いや…」 いつもの彼女だったら、“迷惑をかけて”ごめんなさいと謝るはずだ。 どうも調子が狂う。 月のせいだろうか。
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