白鳥の味噌汁

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「なんで鷲が?」 隙間から顔を覗かせながら鷲太朗に問いかける。 なんせ琥珀は寝間着で髪も寝癖がついている。 こんな姿を鷲太朗に見せるのは恥ずかしいなんてものじゃない。 「驚かせてごめん。 昨日、電話で魁から聞いてない?」 「なんにも聞いてないぞ」 「そのケガじゃ学校に通うのも大変だろうと思って迎えに来たんだ」 驚いて思わず戸を開けてしまう。 「魁が伝え忘れてたみたいですまないな。 ……と、すまない起きたばかりだったのか」 鷲太朗は申し訳なさそうに目線を外す。 琥珀は慌てて、はだけた胸元を正して、髪も手櫛で梳かす。 「こんな格好ですまない。 すぐに支度をするから、中で待っていてくれ」 慌てて動き出そうとする琥珀の腕を鷲太朗が掴む。 「慌てなくて大丈夫だから。 登校まではまだ時間があるだろう?」 鷲太朗に言われて琥珀は恥ずかしさで顔を真っ赤にさせながら、鷲太朗を客室に案内した。 「魁め……昨日そんなこと一言も言ってなかったじゃないか。 カンちゃんにこんな格好を見られるなんて……」 独り言をつぶやきながら制服を着て、身支度を整える。 客室に戻ると鷲太朗の姿は見えない。 どこに行ったのだろうと辺りを見回すと、良い匂いが鼻を掠める。 台所からだ。 「カンちゃん?」 台所を覗くと、鷲太朗が料理をしている。 「ハク、もう支度が済んだのか。 急がなくていいと言ったのに」 そう言いながら彼は、皿の上に料理を並べる。 ウインナーにスクランブルエッグ、トーストそしてコーヒーが湯気を上げて並んでいる。 「すまない、勝手に台所を借りてしまった。 朝食まだだろう?」 彼の問いかけに答えるように、琥珀のお腹が鳴る。 彼女は顔を真っ赤にさせて椅子に腰かける。 鷲太朗はクスリと微笑むと、琥珀の前にカフェオレを置いた。 「……いただきます」 「召し上がれ。 簡単なものしか作れなくてすまないな」 鷲太朗はそう言うが、足を怪我した琥珀にとっては朝ごはんが出てくるだけで十分ありがたいものだ。 「おいしい」 「よかった。 怪我の調子はどうだ?」 「まだ少し痛むけど、動かさなければ平気だ」 鷲太朗はそうかと頷いてコーヒーを一口飲んだ。
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