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正直それだけでも心臓には悪いのだが、彼に支えられた方が歩きやすいのは事実なので、琥珀はおとなしく肩を借りて家を出たのであった。
* * *
学校に着くと鷲太朗は車から降り、松葉杖を持って助手席のドアを開けた。
「降りれるか?」
松葉杖を受け取ると、琥珀はお礼を言う。
「ありがとう、カンちゃん。
朝早くからすまなかった。
お蔭で助かった」
鷲太朗はどういたしましてと笑って言って頭をポンポンと撫でた。
「六時ごろに迎えに来るよ。
時間変わったら連絡して」
「うん、わかった。
いってらっしゃい」
琥珀は鷲太朗に手を振った。
鷲太朗が去ると、遠巻きに見ていた学園の生徒たちが琥珀に歩み寄る。
「白鳥さん、怪我は大丈夫?」
「さっきの男の人って、白鳥さんの彼氏?」
「昨日の放課後に抱き上げていた人だよね」
人混みで焦って身動きが取れなくなっていると、後ろから声がした。
「校門前で固まらないでくださーい。
そろそろ予鈴なりますよー」
腕に生徒会の腕章をつけている梟であった。
梟の呼びかけで、琥珀の周りの人は諦めて校内に入って行く。
「ありがとう、梟くん。
助かった」
「いえいえ、どういたしまして。
怪我は大丈夫?
荷物持つよ」
そう言って梟は、琥珀のバッグを持つと、琥珀のペースに合わせて歩き出す。
「いやーやっぱり車送迎は目立っちゃうね」
「ははは……」
困ったような笑みを浮かべる琥珀とは反対に、梟は楽しそうだ。
「彼氏なんて言われちゃってたね。
魁の耳に入ったらうるさそうだ」
その後、教室に入って先ほどと同じ質問を受け、それを耳にした魁が不機嫌になったのは言うまでもないだろう。
爽やかな風が流れていく校舎で、不穏な影がこっそり動いたことに、誰も気づきはしなかった。
* * *
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