白鳥の日常

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本鈴が鳴る3分前、教室の前のドアがカラカラと音を立てて開いた。 「おはようございます。 みんなー、席に着いて下さいね。 SHR始めますよー」 声だけで穏やかな性格が伝わってくる。 目を細め、ワイシャツにカーディガンを羽織ったその姿は学生にも見える。 「カナちゃん、おはよー!」 「おはようございます。 一応僕も教師なんで先生って呼んでくださいね」 彼はこのクラスの担任、要(カナメ)先生だ。 カナちゃんの通称で親しまれている。 「じゃあ、号令お願いします」 梟は眼鏡をクイと直して声を張る。 「起立、気を付け、礼。 着席」 こうして今日も変わらない日常生活が始まる。 そう思っていた──この時まで。     *  *  * それは突然だった。 「ハクー、ファイトー!」 今は体育の授業。 男女共に体育館でバスケをやっている。 しかし半分に分けられたコートは意味を成していず、片方に人が集中している。 「琥珀さんステキすぎる……」 「一昨日、ついに女子からも告白されたらしいよ」 「えぇっ!? でも、白鳥さんなら納得。 女子でも惚れちゃうよ」 「ホント! あたしファンクラブ入っちゃおっかなぁ」 「わたしも入りたーい!」 「……あ! 白鳥さんボール取ったよ!」 「応援、応援!」 「せーのっ」 「白鳥さーん!!」 「頑張って!」 琥珀は黄色い声援を背に、スリーポイントのラインで動きを止める。 キュッと靴の擦れる音がして、体育館は一瞬静けさに支配される。 琥珀がボールから手を放す。 琥珀が放たれたボールはきれいな弧を描き、ゴールに吸い込まれた。 音もなくシュートをくぐり抜け、気付けば床にボールが転がった。 「し、試合終了!」 体育教師の張りのある声でようやく時が動き出す。 体育教師が言葉を吃らせたのは、教師も呆気に取られていたのだろう。 どこからともなく歓声が上がった。 「ハク、お疲れ! 最後のスリーポイントのシュートめっちゃすごかったよー」 陽菜は琥珀に駆け寄り、ハイタッチを求める。 陽菜に合わせて低めに手を挙げると、手の当たる渇いた音が体育館に響いた。 その後、琥珀にハイタッチを求める者やタオルや飲み物を渡そうとする者で琥珀の周りはごった返した。
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