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本棚に追加電車のホームもガヤガヤとしていてアナウンスの声はほとんど意味を成していない。
電車の訪れを告げるベルがホーム内に響くとようやく人々は動きを一様に揃え出した。
電車に乗り込むといつもより遅い時間帯のせいか人が多い。
おばあちゃんが買い物で時々やってくる詰め放題の方が、まだゆとりがあるように思う。
勿論空いてる座席などあるはずもなく、掴む吊革さえない。
空いた手をバッグに持っていき、ため息を一つついた。
明日から絶対寝坊しまいと心を新たにしていると、背中を軽く叩かれた。
「おはよー、ハク」
「……陽菜、おはよう」
振り向くと小柄な少女が笑顔を向けている。
彼女は琥珀の親友である庭取陽菜。
陽菜は背伸びをして琥珀の眉間を指差した。
「あれれ?
眉間にシワ寄ってるよ?」
「少し寝坊をしてしまってな。
混んでいる電車は嫌いなんだ」
「ハクが寝坊!?」
驚いて目を見開く陽菜。
ボブの長さに切られた柔らかなパーマのかかった髪がさらりと揺れた。
「嬉しい夢を見てたらうっかりな」
「へぇ、どんな夢?」
「んー……初恋の夢」
「ふーん」
陽菜はカバンから鏡を取り出して髪を整え出す。
「……ん?
え、えぇ!?
初恋?
初恋って言ったよね!?」
「え、あぁ、言ったが……。
どうしたんだ、急に?」
もう終わったと思っていた所に急に戻ってきた。
陽菜の勢いに後込む琥珀を、陽菜は腕を掴んで離さない。
「わたしそれ初めて聞いたよ??
9年の付き合いの中で琥珀と恋バナしたの初めてだよ!?」
「そうだったか?」
「『そうだったか?』じゃないよ!
聞きたい!!
ハクの初恋とかすっごい気になる!」
二重括弧の中をキザっぽく声色を変えて言われる。
私は陽菜の中でそんなキャラなのか、と琥珀は不安に思う。
しかし早く早くと陽菜にせがまれ口を開く。
「と言っても、大して語ることは無いぞ?
初恋って言ったってこちらに越してくる前のことだし」
「ってことはー……小学校に入る前ってこと?
意外と早いんだね」
意外ってどういう意味だ、とツッコミを入れたい衝動に駈られた。
しかし早くこのこそばゆい話を終わらせたい思いがそれに勝り、言いかけて喉で止まっていた言葉を飲み込んだ。
当分、消化不良になりそうな一言だったが、陽菜の一言も最もなのでしようがない。
琥珀は恋の経験が零に等しいのだ。
つまりあの初恋しか恋をしたことがない……高校1年生にもなって。

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