新しい生活のスタート

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    屈託のない笑顔で手を差し出す小林の隣りの席に足を組んで座っている、艶やかな黒髪をした、真ん中分けで瞼に掛かる程度に少し長めの前髪をした男が、やけにギスギスとしたオーラを発しているので、俺はそいつの目をなるべく見ないようにしながら小林が差し出した手を軽く握り返して握手に応じる。 「で、あんたの名前は?」 「美空 翼だ……」 「みそら、つばさ……いい名前だな!」 「そ、そうか?」 「俺のことは龍之介って呼び捨てにして呼んでくれればいいから、翼って呼んでいいか?」 「あ、ああ……」  俺と龍之介が会話している間も、その黒髪の男はうつむき加減で前髪に隠れて顔がよく見えないが、怒っている、ということだけは得体の知れない威圧感を発していることから解る。    前髪の隙間からバスが揺れるたびに時折、ちらりと見える鳶色の瞳は、瞬きすらせずにギラリとこちらを凝視している。  機嫌よく楽しげに会話し続ける龍之介の言葉が俺の右耳から左耳へと抜けていく。  龍之介が俺に対して何を話しているかなど、全く頭に入ってこない。
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