~魔王~

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その例のお方が、出現してしまったらしい。ポンペイの森を抜けたその先にある、今は使われていない塔に。 塔……塔って、うぷぷー! 塔に住み着くとか、典型的なバカもまだいたもんだ! 魔王と聞いて俺が想像するのは、ゴテゴテの黒甲冑を着こんだマント羽織って玉座にふんぞり返ってたりする姿。     まーじーで見てみたい。一度でいいから拝んでみたい。そんな素直な好奇心から……、     『お前の考えは丸わかりなんだよォ。違うだろが。町外れにある村から生娘が数人、夜な夜な行方不明になってるらしい、ってェのが動機だろォ?』     うぬぬ! 人の心を読むとはなんてデリカシーのねぇドラゴンだ。ばーたりめ。     「フッ。女性が行方不明と聞いて黙っていられるほど大人しい教育はうけていないぜ! このイシュカ様はな!」     なんでも、行方をくらませたのは村でも美女と呼ばれる女性ばかりだとか!?   女性が囚われ、監禁されている所へ颯爽と現れる金髪イケメンのこの俺!? どう転んでも「彼方が私の王子様なのですね。愛しています。結婚してください」ってオチになるのが目に見えているでしょうに! ウワッホイ! で、そのあと村から助けたお礼に金銀財宝貢がれたりして!? グフフ。やっべ、涎でてきた。     美味しすぎるっしょ!     『連れ回されるこっちの身にもなれってェの……』 俺がこんなテンションであるというのにこのドラゴンときたら首を項垂れやる気のない溜息ひとつ。    ったく。     「堅い事ゆーなよー、エーレ。この一件が片付いたらよ、ほら、例のヤツ、ちゃんとあげるからさ」
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