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くぐもった男の声の出処は、と視線を巡らせばあら珍しい。羽つき毛むくじゃら、クリクリお目目が可愛らしい拡声鬼を使ってらっしゃったのね。
一定範囲内ならば、番(つがい)となるもう一匹の拡声鬼に声を送れるという一風変わったモンスターで、故郷のデルカタニアにも数種類の似たようなモンスターがいてたりする。
飼いならせるような大人しい性格ではないが。
ここの拡声鬼は、ふよふよと俺の周りを漂い、更に男の言葉を発する。
『どのようにしてこの場所を知り得たかは存じ上げませんが、侵入したからには客人として、それなりに御持て成ししますよ。おっと……紹介が遅れましたね、私の名はモルフィス。モルフィス=アラン=ドゥーネ=ゴビリタリウス=メルガ=バポグネ七世』
……おいおいおいおいおいおい、アラン以降を忘れちまったぞ。この短期間で。それどころか、後半を思い出そうと努力している間に前半部分も輪郭がボヤけてきてしまっている。
ま……覚えたところで別にどうっつー事ないか。
『食事の邪魔をされては困るのでね。少々手荒いかもしれませんが、私のペット達と戯れておいてください。フフフフフフフ。生きて出てこれるか見ものですね。私は上階の特等席にて拝見させてもらうとしましょうか。君のような人間の侵入者がどう抗うのか……楽しみです』
言って、言葉はそこで終わった。塔主の会話が途絶え、拡声鬼が上空へと羽をバタつかせて退避するのと、俺を取り囲むようにしてぞろぞろとモンスターの群れが動き出すのは同時であった。
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