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じゃあ残ったのはヨルオムってか? にしては口調が会った時と真逆のような印象を受ける。実際違った。人が変わったとか、そういうのじゃない気がする。言い争いにしては静かな戦争であったし、言葉に込められた感情は、言うなれば悲しみ。
マーチャルノって執事、あんなにヘコヘコするようなタマだったかな。まぁいいけど。
今なら中に入って正面切ってケンカを売れるが……何か変だ。
“見られてる”気がする。
中の部屋から視線のようなものをビシビシと感じる。気付かれたか!? 視線を送ってくるやつは誰だよ……。
しばらく様子を伺うべく行動に出なかったところ、中からの反応もなし。
と思いきや――
「ふぅ……やれやれ。いつまでも……そんなところに居てないで、中に入ってきたらどうです?」
意外も意外。ヨルオムの口から溢れでた言葉であった。……ハッタリか? 誰に向かって話してる? 気配は完全に消してるはずだ。
野生動物並みの気配の断ち方を習得してる俺だぞ。バレちゃいまい。
「…………」
「まぁ、そのままでも私は結構ですが。釣り、をした事はありますか? かかった魚の命の重みが竿を通じてズシリと両手に伝わるあの感覚。とても小さな生き物の引く力とは思えない。周りの環境も手伝っているのでしょうが、命の重みに違いはない」
何の話をしてやがる? 片割れは部屋を出たんだろ? まさかもう一人中にいたとかそういうオチはねぇよな。
「片方の命が、もう片方の命を引っ張る。どちらが勝るか。引くか引かれるか。“引っ張られる感覚”はもう体験したはずですよね? いい加減中へ入ったらどうです? ロインさん」
おいおいおい。バレてるじゃねぇか、俺。
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