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「じきに雨が降る。嫌な空気ですよ、まったく」
チッ。胸糞悪いヤツだ。
「アレか? 体が引っ張られるあの引力が原因か? ここに来る度……度っつっても二回目だけどよ。二回ともそうだ。まさかお前が引っ張ってたって感じかよ?」
下へ降り立った真正面、開いた窓越しにヨルオムが立っていた。
まっすぐこちらに視線を向けて。感情のこもっていない表情からはコイツの考えが何も読めない。
だがハッキリしている事もある。
このふつふつと沸き起こる“敵”という認識。争う気がないのは態度とオーラを読めばわかるが、違和感がハンパじゃない。自然と、俺の手は大剣を呼び出して柄に手をかけていた。
時間が経つごとに。こうして相対している間にも。釈然としない胸騒ぎが募る。
コイツの“深み”にはまりそうで怖い。まだ何か、何かを隠してやがる。
「中へ入ってください」
「断る」
窓を越えて部屋に入る危険度ってやつが測り知れない。ヨルオム自ら戦闘に乗り出す気配はしないものの、油断はできない。部屋に誘い込み罠にかける可能性もあるわけだから。
「何故」
「足が動こうとしないからかな」
「何を臆する事があるのです」
臆すると来たか。俺を誘い入れるための口実だとしたら浅はかだ。
「本能だな」
そう、本能だ。
コイツは危うい、と。
背筋が凍る。真実が何なのか薄透明な膜を通して伝えられてくるようだ。
「ただの一町の領主ですよ」
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