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返答によっちゃ……しかし、思えど足は動かなかった。
無意識下での警報。
異変に気付いたのはヨルオムの輪郭が一瞬脹らんだ、かのように見えたことから。
視線と視線をぶつけていたのを、万遍なくその背景、背後、全身に目をやるようになってからであった。
ぐにゃり
ヤツの体が高熱を宿したのか、いきなり周りに見える風景全てが陽炎のごとく歪んで見えた。
実際に背後の家具やら何やらがひん曲がったわけではない。ただその威圧感というか存在感というか、それら合わせての“オーラ”が大気を歪めるという錯覚を生んだのだと思う。
身体的大きさはそのままに、建物の屋根を圧しのけみるみるヤツの巨きさが肥大していく……かのように見えた。
水平だった視線はいつしか角度をつけそして――萎(しぼ)んだ。
両者の距離が僅かに開く。
ほんの気持ち程度の、誰にも気付かれることのない本人にしかわからない距離の開き。
間合いの外だ。
へっ。勘違いか? 踏み込むつもりの気構えでいたのに肩透かしを食らったようだ。
が――
「……ッ!? えっ?」
ヨルオムは一歩も動いちゃいない。
動いたのは、俺? 俺っ!?
腕を動かそうとしたヨルオムに対して、
「っ!? ……ッッッ!!??」
過剰に反応する俺。また一歩、後ろへ下がっていた。
「強張りを解いたらどうです?」
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