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言われてから初めて悟る。
俺は、強ばっていた。緊張していたのだ。
ギュっと剣の柄を握り締めた右手には意識せずとも溢れ出た大量の汗も一緒に握られていた。
普段入れなくてもいいような筋肉に余分に力を入れている。
「るせぇ」
バチバチと、両者戦闘態勢で闘気も殺気も漲らせ、持てる力を思う存分に出し切る。
……相手の力量との僅差、格差を問わず命の削り合いをする。
そういう戦いをしてきたし、そういう戦いを事前にどこか頭の中で描いてさえいた。
「さぁ、中へ。話し合いで解決する話をこじれさせる必要がどこにおありか」
コイツの“深さ”が読めない。
地下で出会った琥珀竜とはまた違う巨大さ。
命取りになる刹那を生み続ける俺を救ってくれたのは、言わずもがな、ファタルであった。
『一度退くぞ、王よ。逃げる時間を与えてくれている間に』
ファタルのこの言葉が、嫌に鋭く胸に突き刺さった。
俺に戦闘をするという選択肢を選ばせず、無理やり“逃避”へと導くヤツの強さ。
認めたくない現実。
理解できない俺がまだ未熟であると認識する。
「……クソったれ」
小さく毒を吐いて後ろへ後ずさりながらその場から去ろうとする俺に、ヨルオムは背を向けてこう言った。
「石は確実に配置してくださいね」
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