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「今日も見れなかったかー」
小鳥がさえずる、いつも通りの朝。波川冬弥〔ナミカワ トウヤ〕は開口一番そう言い放った。
黒く、決して長くはない髪を揺らし、平均的な体躯を起こして学校へ向かう準備をする。
冬弥は生まれて一度も夢を見たことがない。夢が見れなくて困ったことはなかったが、一年前からその考えはなくなった。
ちょうど一年前、冬弥は本を読んでいて明晰夢の存在を知った。
夢を見たこともないのに明晰夢なんて見れるのか、そういう考えが頭に浮かんだが、
これならば夢の中でなんでもできる、その素晴らしい内容に冬弥は興味を惹かれ、明晰夢について調べ、情報を仕入れて挑戦してきた。しかし今日まで失敗ばかり。
冬弥は一年間明晰夢を見るために努力してきたが、未だ見れていない。
なぜ冬弥は明晰夢が見たいのか……、
冬弥には好きな人がいる。同じクラスの綾咲千早〔アヤサキ チハヤ〕だ。冬弥は小学校の時からずっと千早が好きだった。しかし告白もできず、今に至る。
冬弥が明晰夢を見たい理由……。
それは『千早と夢の中でキスがしたかった』からだ。
なんとも不純な動機だが奥手な冬弥にとって、それだけでも十分すぎる行動だった。
『千早と夢の中でキスをする』
冬弥の頭の中はそれでいっぱいだった。
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