1.明晰夢〔メイセキム〕

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「今日も見れなかったかー」 小鳥がさえずる、いつも通りの朝。波川冬弥〔ナミカワ トウヤ〕は開口一番そう言い放った。 黒く、決して長くはない髪を揺らし、平均的な体躯を起こして学校へ向かう準備をする。 冬弥は生まれて一度も夢を見たことがない。夢が見れなくて困ったことはなかったが、一年前からその考えはなくなった。 ちょうど一年前、冬弥は本を読んでいて明晰夢の存在を知った。 夢を見たこともないのに明晰夢なんて見れるのか、そういう考えが頭に浮かんだが、 これならば夢の中でなんでもできる、その素晴らしい内容に冬弥は興味を惹かれ、明晰夢について調べ、情報を仕入れて挑戦してきた。しかし今日まで失敗ばかり。 冬弥は一年間明晰夢を見るために努力してきたが、未だ見れていない。 なぜ冬弥は明晰夢が見たいのか……、 冬弥には好きな人がいる。同じクラスの綾咲千早〔アヤサキ チハヤ〕だ。冬弥は小学校の時からずっと千早が好きだった。しかし告白もできず、今に至る。 冬弥が明晰夢を見たい理由……。 それは『千早と夢の中でキスがしたかった』からだ。 なんとも不純な動機だが奥手な冬弥にとって、それだけでも十分すぎる行動だった。 『千早と夢の中でキスをする』 冬弥の頭の中はそれでいっぱいだった。
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