…溺れる人々…

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『和子、久しぶりね!変わりなかね!元気しとっと?』 美智子は私を見付けるなり、大きな声でそこにいた人達の視線を集めた。 真夏の湿った空気のせいもあり…私の額から汗がぽとりと落ちた。 『美智子も、学生時代から変わらんけん。それで、その従兄の家には、今から行くとね?』 『悪かねぇ、私は都会は全然わからんけん。和子に案内してもらわんと。』 私は差し出された紙に書かれた住所を見た。 少し時間がかかりそうだが、美智子の頼みを断る訳にはいかない。 私達は、早速、その郊外の駅に向けて電車に飛び乗った。 『凄かね、いっつもこのビルを見ると思うたい。』 『そう?なんか、もう慣れちゃったみたい。何も感じなくなっちゃうわよ。』 電車を乗り換え、段々、田畑が車窓から見え始めると美智子は何やら、ゴソゴソと鞄から板状の物体を取り出した。 『和子、ほらっ。』 美智子は、鞄から取り出したチョコレートを私へと手渡した。 二人して、並んで、もぐもぐと無言で食べるチョコレート。 ちょうど、トンネルに入った瞬間、暗くなった車内で…前の座席の後ろのガラスが目に入った。 そのガラスに映った老けたオバサンは誰だろうと目を見開いて見てみる。 そして、よーく見てみたら…そのオバサンは、チョコレートを片手に…体を乗り出していた。 私は急いで、香の勤める信用金庫から貰ったポケットティッシュでチョコレートを包み、鞄にしまった。 もう…私も盛りをとおに過ぎてしまったという事か…。 私も、臭くて寂しい旦那の様に、臭くて寂しいオバサンになっちゃったんだ…。 臭くて寂しい…なんて嫌だ。
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