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「さて!」
パン、と一つ。
柏手を打って【竜しっぽ】が顔を上げた。
また表情がコロリと変わっていて、今度はやけに真面目そうだ。
「それでは無精、この【竜しっぽ】。皆様の案内船頭を務めさせていただきます。
皆々様方、準備の程は?」
表情と同じく、さっきまでとは一転した、ひどく真面目で堅い、芝居がかった口ぶりで彼女は口上を述べる。
ぼくらはそれに、小さく首を縦に振って答えた。
この一変した様子も、彼女には妙に似つかわしい。
派手で奇抜な、舞台役者のような衣装のせいなのだろうか?
「ご結構。
……さあ、今宵の夢を始めましょう」
オーバーアクション気味に頷き、彼女はそう言うと、ゆらりと、打った形で合わせていたままの手のひらを開いた。
大仰なその動作に追随するように、また世界が、【仔犬の娘】が来たあの時と同じように変質した。
今度は音もない、精々少しだけ空気が揺らいだ程度の、ほんの僅かな変化。
【竜しっぽ】の手のひらの間に、古びた鍵が収まっていた。
アンティークな装飾がなされた優美な銀細工の鍵だ。
そしてもう一つ
……ザ…ザザッ……ザァーーーッ、ザッ…ザザッ……
何も映していなかった30インチのテレビスクリーン一杯に、灰色のノイズが走っていた。
「ふふん……それじゃ、始めよっか?」
いつもの調子で【竜しっぽ】が笑っていた。
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