ビロード

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彼は、いったい、どんなかおを、していたのだろう。 そのとき電話が鳴った。 電子音が、私を呼んでいる。 それはしつこいほどに、大きな音でやかましく部屋中に響きわたった。 紙を破くように、びりびりと音を立てながら、私のなかで何かが崩れていった。 電話には、出ない。 カップの上にかぶせていた皿をどけようとすると、指に貼りつくようにして湯気は立ちのぼり、そして消えた。 黒光りする紅茶をすする。 どろどろは、していなかった。 少々キツイくらいが、丁度いいのだ。 見た目より、ずいぶんとサラサラしているのは、きっとホントは水であるから。 震える視界は、きっと貴方のいない明日が見えてしまっているから。 すっかり絞りとられたティーパックは、もう二杯目には使えないだろう。 溶け落ちた茶色は、私の身体のなかを苦い色に染めていく。 そして私は明日も、アールグレイの、このすっぱい匂いを嗅ぐのだろう。 雨は、降らない。 晴れ間も、ながくは続かない。 家のなかで、犬がないた。 どこか遠くのほうを見つめている。 私は飲みきらないうちに、テーブルにカップを置いた。 茶色のしずくが白の外側をなぞった。 私はそのしずくが乾くまで、椅子に腰をあずけ、ただただ時間が通りすぎるのを待った。
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