ビロード

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私の母は、この頃白い食器を集めるのに凝っていて、ティーカップもそれにならって統一してあった。 棚から1人分の食器を取りだす。 カラン、と同じモノ同士の肌が触れる音がした。 底の深いティーカップに、高くからお湯を注ぎ込む。 三角仕立ての紅茶の袋がいっぱいに空気をほおばる。 そのなかで規則正しく茶葉は上下に弧をえがく。 鈍い茶色が、ちろちろと底のほうへ落ちていった。 しばらくその光景をぼんやりと眺めてから、私は思い出したように皿を上にかぶせた。 蒸したほうが美味しいと、いつかの誰かのコトバが頭に浮かんだからであった。 学校にいかないというのは、想像していた以上に退屈でつまらないものだった。 あんとき、聞いときゃよかったな。 今さらながら思う。
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