ビロード

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卒業したあの日、私はあの人へ、いままでの気持ちを吐きだしていた。 それは美しくも何ともない、どこの街の一角にあってもおかしくないような、そんなある日の光景に似ていた。 ただ、いつもの彼と私がいた。 そしてとうとう返事を聞かないまま、私は一方的にさよならを切りだした。 足が勝手に彼から遠ざかっていくのがわかった。 でも振り向かなかった。 だからそのときの彼がどんな顔をしてたとか、そんなことは私は知らない。 けれど、少しでもいいから、去っていく私の背中を見つめて、淋しげな、そんな顔をしてくれていたら、 私を捕まえようとしたかすかな手が、空を切っていたら、そんな素振りをしていてくれたら、 もうそれだけで充分だった。 そんな些細なことで、私は満たされたのだ。 ほかにそれ以上のことなんか欲していなかった。 けれどけっきょく、それさえも恐くなって、私はその場から逃げだしたのだ。 幸も不幸もない。 私が、私自身が、何にもないことを、願ったのだ。 そうであるならば、そもそも、こんなことは彼に伝えるべきではなかった。 しかし私の身体はあのときおのずと動いていた。 うわずりながらも私の口は私を口ずさみ、しかし目は彼を拒んだ。 何もかもがちぐはぐに機能し、そうして私は、けっきょく私自身を逃がした。
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