とある中年男の話

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すっかり夜も更けた夏のある日、人気のない公園のベンチに中年の男が一人ぽつんと座っていた。 彼の頭上にある街灯は切れかかってはいるものの、蛾を呼び寄せるには眩しい程のものであったのだろう。 そして、それは街灯を虚ろな目で見上げているこの男にとっても同じ様に感じられていたのかも知れない。 街灯の光を浴びても闇に溶けているかのような男の服装は一見、会社帰りのようである。 しかしこの男、実は今日一日中こうしてベンチに座り、ぼぉっとしているのである。 そして今日、何百回目になるであろう溜め息を深々と吐き出し、男はやっとベンチから立ち上がった。
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