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その小さなダイニングバーは、暖かい色の照明で仄明るくて。満席でも大人な静けさで落ち着ける場所だった。
確かに食事もワインも美味いけど。どうも俺は腑に落ちない。
「――何でだろうな?」
って。飲み干したグラスをテーブルに戻す。
小野さんと食事したい!
↓
ニノと食事する?
↓
ニノ+颯君と食事するの?
↓
颯君と飲むの?
最初の予定が、何時の間にか予想もしてなかった相手と単なる飲みってことになって。
「いや~、何でだろうね?」
まあ。いいじゃない、コノルンと二人で飲むの久々だし。
どうぞって。テーブルを挟んだ向こう側から、赤ワインのボトルが差し出されたから。
「そうだな…この組み合わせは珍しいよな」
すい、ってワイングラスをテーブルの上で滑らせて押し出す。
颯君は右手で瓶の底を持ったら、折りたたんだナプキンで包むように左手でボトルの胴を支えて傾ける。
グラスに赤いリボンがするすると落ちていくように、音も立てずに注がれるワイン。
注ぎ終わりにゆっくりと捻るようにボトルを回して。ナプキンで瓶の口を拭き上げた。
「注ぎ方がスマートだ。俺にも教えて?」
グラスの足を指先で挟んで引き寄せたら、
「そう!?――褒められたの初めてだよ?」
俺も知ってるお店でちょっと教えてもらっただけなんだけどさ、って。少し面映そうにしながら。
「じゃ。コノルンもやってみる?」
飲み干した颯君のグラスを示されて。
「こう…か?」
右手で壜の底を掴んで。ナプキン添えた左手で壜の胴を支えて見せたら。
「そうそう。壜の口から底まで空気が通るようにしたら…ゆっくり細く注げるから。――いいね。グラスの3分の1まで注いで…最後は壜を捻るようにして持ち上げたら、雫が垂れない」
上手い上手い、なんて褒め上手の颯君に乗せられたから。
お互いのグラスを何度もワインで満たしあって。いい具合に酔いが回ってくる。
ニノの誕生日プレゼントの件はそっちのけ。最近嵌まった本とかDVDの話になったら。
「その映画俺も観たい!!」
明日休みだし今から借りに行っていい?なんて。颯君が聞いてくる。
「いいよ?」
「アリガト。帰ってニノと一緒に観ようかな」
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