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細い路地の坂道の途中にあるその小さな店で。
「初めてですよね?」
二人でこうやって飲むの。
一枚板のカウンターに並んで座って。どうぞ?ってニノに傾けられたのは、碧くて片手にすっぽり収まるくらいの小さな壜。
「そうだっけ?」
小さな泡が弾ける音をグラスで受けながら惚けたら。
「そうですよ。しかも小野さん。お店のチョイスが渋いなぁ」
並んでる小皿を見たら。確かに魚と野菜の料理が中心の。
――赤坂の小料理屋。
スタジオから徒歩圏内で来られるってのが凄い。
「此処なら――オトナしか来ないだろ」
静かだし。なんて。
「――確かにそうですけど…」
こんなに静かだと俺説教しにくいなあ。って苦笑いされる。
「しかも。小料理屋でワインって面白いですよね?」
確かに壜のラベルも、見た目はシャンパンのラベルみたいだけど。
「コレね。『スパークリヴァン』っていう、長野の発泡日本酒」
飲んでみろ、って。俺もニノのグラスに返杯する。
「じゃあ…」
お疲れ様でーす。ってグラスを合わせて。
くい、って飲んだら。小さな泡が舌や喉を転がるように通り過ぎて。
――ほんのりした甜さが、口の中に名残りのように広がる。
コレも。ルンから教わった銘柄だ。
「嘘?――コレ、日本酒ですか!?」
フルーティで飲みやすい!!って。俺も初めて飲んだときそう思ったよ。
「名前が仏蘭西語なんだってさ。『リ』はライス。『ヴァン』はワイン。『おコメのワイン』そのものズバリだろ?」
くい、って気持ちよくリヴァンを飲み干したニノは。
「小野さんがこんな洒落たチョイスをすると思えないですね」
なんて言い始める。
「オマエホントに嫌になるくらい鋭いな…。そうだよ?全部ルンからの受け売り」
「――ホラやっぱり。原点回帰は其処なんですよ」
じゃあ。何から聞いてもらいましょうかね…。なんて言うニノのグラスに。またリヴァンを注ぐ。
「『コワいって言われたくない』事件とか。 『ウエスコブーツ要らない』事件とか。『立王大キス拒否』事件とか。『正月遊んでもらえなかった事件』とか。『トイカメラ1枚しか撮れてない』事件とか。『インド土産が恐怖絵だった』事件とか。『俺より釣り道具が大事』事件とか。『バレンタイン5円チョコ』事件とか。『釣り居酒屋ロケで大暴走』事件とか…」
両手の指が足りなくなりそうになったところで。
「お前何でそんなに知ってるんだよ…」
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