玄い女神(ルン×サトリ)

22/38
前へ
/339ページ
次へ
細い路地の坂道の途中にあるその小さな店で。 「初めてですよね?」 二人でこうやって飲むの。 一枚板のカウンターに並んで座って。どうぞ?ってニノに傾けられたのは、碧くて片手にすっぽり収まるくらいの小さな壜。 「そうだっけ?」 小さな泡が弾ける音をグラスで受けながら惚けたら。 「そうですよ。しかも小野さん。お店のチョイスが渋いなぁ」 並んでる小皿を見たら。確かに魚と野菜の料理が中心の。 ――赤坂の小料理屋。 スタジオから徒歩圏内で来られるってのが凄い。 「此処なら――オトナしか来ないだろ」 静かだし。なんて。 「――確かにそうですけど…」 こんなに静かだと俺説教しにくいなあ。って苦笑いされる。 「しかも。小料理屋でワインって面白いですよね?」 確かに壜のラベルも、見た目はシャンパンのラベルみたいだけど。 「コレね。『スパークリヴァン』っていう、長野の発泡日本酒」 飲んでみろ、って。俺もニノのグラスに返杯する。 「じゃあ…」 お疲れ様でーす。ってグラスを合わせて。 くい、って飲んだら。小さな泡が舌や喉を転がるように通り過ぎて。 ――ほんのりした甜さが、口の中に名残りのように広がる。 コレも。ルンから教わった銘柄だ。 「嘘?――コレ、日本酒ですか!?」 フルーティで飲みやすい!!って。俺も初めて飲んだときそう思ったよ。 「名前が仏蘭西語なんだってさ。『リ』はライス。『ヴァン』はワイン。『おコメのワイン』そのものズバリだろ?」 くい、って気持ちよくリヴァンを飲み干したニノは。 「小野さんがこんな洒落たチョイスをすると思えないですね」 なんて言い始める。 「オマエホントに嫌になるくらい鋭いな…。そうだよ?全部ルンからの受け売り」 「――ホラやっぱり。原点回帰は其処なんですよ」 じゃあ。何から聞いてもらいましょうかね…。なんて言うニノのグラスに。またリヴァンを注ぐ。 「『コワいって言われたくない』事件とか。 『ウエスコブーツ要らない』事件とか。『立王大キス拒否』事件とか。『正月遊んでもらえなかった事件』とか。『トイカメラ1枚しか撮れてない』事件とか。『インド土産が恐怖絵だった』事件とか。『俺より釣り道具が大事』事件とか。『バレンタイン5円チョコ』事件とか。『釣り居酒屋ロケで大暴走』事件とか…」 両手の指が足りなくなりそうになったところで。 「お前何でそんなに知ってるんだよ…」
/339ページ

最初のコメントを投稿しよう!

614人が本棚に入れています
本棚に追加