フカンゼンハンザイ(颯×壱成)

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ニノの声でその場が凍りつくように止まった。 4人の間に沈黙が流れる。 誰が次に話を振るのか、ジリジリとお互い探りながら息を潜めるようにしてたら。 「オッハヨー!!」 ガチャっ!て。 見計らったようなタイミングで、渦中のアイダちゃんが入ってきたから。 皆で思わずドアに一斉に目線を送る。 視線に金縛りに会ったように、立ち竦むアイダちゃん。 「何時も皆言ってるだろ――ノックしろよ!!」 開口一番珍しく小野さんが苛立たしげに声を荒げたのに驚いたアイダちゃんは。入口から動けずに。 俺達の顔を見回してから。 「ご…ゴメン。――皆どうしたの?コワい顔して…。まさか、――ケンカ?」 「ケンカだ」 小野さんが言う。 「――ただ御前等。此処から一歩でも出たら。一旦全部忘れてもらうからな。後の話は戻ってからだぞ」 珍しく仕切るけれど。 やっぱり小野さんは俺達の『精神的支柱』だけあって。 誰からも異論は出ない。 「ホラ皆…」 ――パン!! 「支度支度!」 コノルンが一つ大きく手を打ち鳴らしたから。 呪縛から解けたみたいに、皆足元を凍らせていた姿勢から力を抜いた。 「アイダさん早く。時間押すだろ?」 「あ…、うん!ゴメンルン君」 アイダちゃんは、ニノが昨日上げた白いスヌードを慌てて外しながら、楽屋に入ってくる。 ニノが。 『アイダさんは絶対コレが好きです』  って凄く真剣に選んでたあのスヌード。もうちゃんと使ってるのか。 ――ふと。 ドス黒くて重い感情が澱むように溜まるのに気付いて戸惑う。 『ニノは俺を選んだんだろ?』 誰も傷つかずに済むなんて、有り得ない。 ニノが苦悩するのはわかるけど。 嘘をついたり、隠したり、先延ばしすることが優しさなのか? 俺はそうは、思わない。 でも。 「今日も寒かったね~!颯ちゃん!」 って。何も知らずに暢気に俺に話しかけてくるアイダちゃんの笑顔に向かって、何とか一言返す。 「そうだね」 ニノと俺の考え方、どっちが正しいんだろう。 小野さんに『一旦忘れろ』って言われたはずなのに。 俺は今日の仕事中頭の隅で。 ずっとそのことばかり、考えてた。 (了)
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