九段坂の、春。(サトリ×颯)

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北の丸公園への入口、田安門前まで坂を上ったら。  門まで続く土橋の両側に、お互いの側まで届けとばかりに枝を伸ばして、見事な通り抜けのトンネルを作ってる桜並木。 手を伸ばしてもギリギリ届かないくらいの高さまで枝が広がってる。 『此処も、颯君と通ったなぁ』 スマホ出して、腕を伸ばして桜の枝を接写。何枚か撮って、確かめた写真の出来に満足してから。 堀に向かって枝垂れる枝を、立ち止まって眺める。 スゲぇな…。 人間が作るモノは、美しさを留めるために苦心してるけれど。 桜の美しさは、必ず散るってことがコミなんだと思う。 ――『儚い』って人の夢って書くでしょ…? ホントにこの短い時期だけ。人は桜に夢を見させられてるのかもしれないよ―― あの夜、手を繋いで歩きながら、颯君がそんなこと言ってたのを思い出して、淡い色の枝を見上げながらひとり切なくなる。 そうだ。 ――あのサクラが観たい。 颯君と初めて気持を確かめ合ったのはあの大きな桜の樹の下。 今どうなってるんだろう。 ゆっくり歩いてた歩幅が、 早歩きで少し大きくなって。 田安門を潜り抜ける頃には駆け足になる。 何故か最後は全力疾走。 武道館の前を駆け抜けて。 北の丸公園の中で、桜の樹を探した。 少し酔って夢心地で手を引かれた夜の記憶を、必死に辿る。 あれじゃ…ないな。 もっと大きな枝が広がってたはず。 あれでも、ない。 高さは同じくらいだけど。八重の山桜だから色が濃すぎる。 立派な桜や、キレイな桜は沢山植えてあるのに。 俺の探してる。たった一本の樹が見つからない。 ――嘘だろ? 立ち止まってぐるり、とその場を回って、見える景色を確認。 あの桜の下から見えてた風景を探す。
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