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広い公園は、堀を挟んで沢山の大きな建物に囲まれてたから、
『あれだ!』
記憶の中の景色にあったビルを見つけて、桜の下から見えた角度を求めて、やっぱり走る。
少しずつ、覚えてる角度に近づいて、胸が高鳴っていく。
周りの風景と記憶が重なった時。
俺は。
「着いた?」
あのサクラの樹の下に、とうとう戻って来た。
今年も満開で。周りの空気まで、薄い桜色に煙ってるみたい。
「良かった…」
夢じゃ、なかったって。
誰に見られたって構わない。
歩み寄ったら思わず幹に抱きついた。
幹の半分ぐらいまでしか腕は届かないけれど。樹の肌のゴツゴツした感触は、何故か温かく感じて。
見上げたら、相変わらず頬を撫でてくる霧雨と、強い風に。満開のサクラの枝が震えてる。
抱きしめてた幹に背中を預けてその場に座り込む。
満足するまでサクラを見上げて。また写真を撮って、小一時間は此処で過ごした。
『そろそろ起き出すかな?』
颯君に、写真を送ってみる。
――あのサクラ。今年も満開。
そろそろ9時だし、美術館に行くかな、って立ち上がって。
少し離れたところで写真撮ろうと思ったら。
メール送って1分も経たないうちに。
「ぅわ!――なんだ!?」
スマホがブルブル手の中で震え出した。
相手は当然。
「――そ…颯君!?」
オハヨウ…って言ったら。
この世の終わりみたいな低い低い声で。
『――どうして…俺を連れてってくれなかったの?』
早速の恨み言か?
「や…。ホラ、一日がかりで美術館とか、颯君耐えらんないだろ?」
『でも、サクラ見るなんて、聞いてない』
起きたらもう、サトリさん隣に居ないし…、って。
オイオイ、デンワの向こうでぐずり始めたよ29歳…。
こうなったらもう、ひたすら宥めるしかない。
「今度の休みに、一緒に行こう?」
『今満開なんでしょ?――次の休み、10日後だよ?』
散って軸しか残ってないでしょ。
ダダのこね方が論理的なんて、タチが悪い。
『――待ってて。今から行く』
「え!?――颯君仕事…」
『午後からだし。そっち行って昼ごはんしてからでも間に合う』
40分くらいで行くから待っててよ?って一言残してから、俺の返事も聞かずに通話が途切れた。
――ま…。仕方ない、か。
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