SWEET SWEET SWEET(ルン×アサキ)

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タクシーを降りたら。 肌を苛む7月の熱い空気から逃れて、自動ドアから滑り込むように大学病院の中に入った途端。 少し照明の落とされた空間。 『…番の方、22番診察室へお入り下さい…』 遠くでかすかに聞こえる、待合室のアナウンス。 静かなのに確かにざわめいている不思議な空間を、エントランスから一気にエレベーターホールまで突っ切る。 特別個室のある最上階まで昇った俺は。 札は掛かってないけどこの部屋だって皆から聞いてたドアの前。 「――」 ノックしようと上げかけた手を顔の前で停めて。 戸惑って立ち尽くした。 『しっかりしろよ…』 すぅ…、と。 ひとつ深呼吸。 こんなことで落ち着けるなら、とっくに部屋に入れてるけど。 何時までもこうしてるわけにいかないから。 俺は無理矢理拳に力を入れて、ドアをノックした。 『――どおぞー』 って。中から聞こえてくる声は、何時もとそんなに変わらないのに。 「失礼しま…す」 スライドドアを引き開けて覗きこんだら。 「コノルン!!」 ベッドをリクライニングさせて殆ど座ってる状態のアイダさんは、病人の癖に満面の笑みで俺を迎え入れた。 アイダさんと白いベッド。 ――余りにも不釣合いだ。 「ねえ。何やってんの?早く入んなよ!」 両腕を俺に向かって伸ばして、手をブラブラさせる。 「もー、遅い!コノルンが一番に来てくれるって思ってたのに…お見舞い最後だよ!?」 愛が足りないよ、愛が!って。ホントにこれが病人なのか、ってくらい、ベッドの上でオーバーアクション気味のアイダさん。 俺の気も知らないで…って口の先で小さく毒づいた後で。 「真打は最後に登場して、オイシイトコロを全部取って行くんだよ」 ベッドの端に腰かけて。 何時もなら息もさせないくらいきつく抱き締めるところを。 優しいハグで我慢したのに、 「え~!?ねえ。何時もみたいにぎゅー!!ってヤツ、してくれないの?」 って、俺の腕の中で不満を言うアイダさん。 「出来るわけないだろ…」
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