玄い女神(ルン×サトリ)

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時が経つのはあっと言う間だ。 もう半年以上前になるけれど。  俺は以前連ドラでやったモンスタープリンスが映画化されることになって。 撮影で、生まれて初めてインドに行くことになった。 たったの一週間留守にするだけだったのに。 出発前最後に5人でやる仕事の時に。 アイダちゃんから。 「いいなリーダー。毎日カレー食べ放題だね」 なんて暢気に羨ましがられて。 ニノからは、 「面白いお土産チョー期待してますからね?」 当然のようにハードルを上げられて。 颯君からは、旅の餞に。 「一度行くと価値観が変わる国のひとつだよ」 なんて、唯一まっとうなコト言われて。 ルンからはたったひとこと。 「気をつけて」 「…うん」 ルンとは元々あまり話をしないけどさ。 昨年末以来あんなにウルサいくらい俺にべったりだった癖に。 年明けたらあっさり。 また告られる前みたいに、何だか距離置かれてる気がした。 晩飯行こうとか、家に来いとか。今年はまだ一回も言われてなくて。  ま、部屋に行く気はさらさらないんだけど。誘われないとなると、物足りないと思うなんて。 このちぐはぐな気持ちの理由を、実は俺は解ってるんだけど。 得意の「見えない振り」をして誤魔化す。  それにしてもルンのやつ。もう俺のコト諦めたのか? ――口ほどにもない。 ホッとするべきトコロを。何故か腹が立って。 『ルンのお土産。超怖い宗教画にしよう』 行く前から、何故かルンのお土産だけは決まっちゃってた。  その日の収録終わり。 楽屋に戻りながら。 『小野さん。何曜日出発?』 って。並んだルンにさらっと聞かれて。 『うん?――明後日』 まだ俺全然荷物準備して無いから、今日帰ったらやろうかな、って思ってるって答えたら。 『準備って言ったってどうせ、換えのTシャツ詰め込むくらいだろ?』 あ。でもインドの1月って。寒いのか?ちゃんと羽織るモノ持って行けよ? 何故か見抜かれてる。 『解ってるって。まあ…スケッチブック持って行きたいけど。描いてる時間ねえだろうしなあ…』 なんて。何気ない会話しながら。  やっぱりその日も。 何となく楽屋で着替えて別れた。
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