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『ヤバイ…もう小野さん入ってるかもしれないな…』
水曜日。
『成田発日本航空11時35分ニューデリー行き』
インドへの直行便は、一日2本しかない。
曜日さえ聞けばこの便、ってのは解ってたのに。
余裕を持って家を出てきたはずが首都高の渋滞に巻き込まれて。
チェックインは60分前までだし、成田に着いて時計見て10時過ぎてるの確認した時にはちょっと焦りながら。
第二ターミナル3階。チェックインカウンターが並んでるところまで走って行って、ひとつひとつ、確認して回った。
『――居ない』
小野さんてこういう時、時間ギリギリに来るタイプじゃあないから、もう中のロビーに入ってるかもしれないな…。って諦めかけた時。
「え…――ルン?」
聞きなれた声に、振り返る。
「オマエ…どうしたんだ!?」
手荷物のボディバッグと、お気に入りの釣り雑誌片手にした小野さんが。
驚きすぎて口開けて、ぽかんとした顔で立ち尽くしてた。
「何だよ其の顔」
――笑っちゃうくらい劇的な再会。
一昔も二昔も前のドラマのシーンかよ、ってココロの中でツッコミ入れてたら。
「誰か、見送りか?――あ、出迎えか…」
なんて。驚きのコトバが帰ってきた。
「出国フロアだぞ?――小野さんの見送りだよ」
一瞬ん?って首を小さく傾げた小野さんは。
「え?――お!!おお!そうか、ワザワザ来てくれたのか!?」
珍しくテンション上げて歓迎してくれたのに、直ぐに残念そうに。
「悪い…。チェックイン済ませてるんだけど、出国審査と手荷物これからで、あんまり時間ないんだ」
「コッチこそゴメンな。渡したいものがあって来ただけだから。カバンの中、まだ余裕ある?」
「大丈夫だぞ?」
「良かった」
手のひらに乗るくらいの小さなケースと。
雑誌を一冊差し出す。
受け取ったケースの蓋を開けて、早速中身を取り出して確かめた小野さんは。
「――カメラ?」
俺もデジカメ持ってきてるぞ、って言われるけど。
「コレは。フィルム撮りの『トイカメラ』」
プラスチックでちょっとチープなシルバーのボディにVivitar Ultraってロゴが入ってる。
「あ、アートカメラってヤツだな?」
「絵を描く時間無いって言ってたろ?代わりにアートな写真、撮って来いよ…――と言うわけで。コレが、Viviterで撮った写真集。こっちが解説書」
「準備いいなあ。じゃあ機内で勉強して、コレで撮ってくるか」
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