玄い女神(ルン×サトリ)

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機体が水平飛行になって、ポーン、って軽い音聞こえてシートベルトのサインが消えたら早速。 椅子の下に入れておいたカバンから、ルンに貰ったVivitarUltraと雑誌を取り出した。 懐かしいドラマのワンシーンみたいに、颯爽と現れたアイツは。 本当にこのトイカメラを渡すためだけのためにやってきて。 ハグも握手もなし。用が済んだら会って五分もたたないうちにただ小さく手を振って見送られた。 「気をつけて」 また、それだけしか言ってくれないのか?って不満だったけど。 良く考えたら、俺のために、大事なオフを使ってくれたんだよな。 それにきっと。 『インドでスケッチする時間が無い…』 嘆いてた俺のコトバ。気にかけてくれてたんだ、って解ったら。口元が緩むくらい、嬉しかった。 『やっぱり俺。ズルいし、現金だ…』 正直。真面目なあいつには俺みたいにいい加減な奴は全然相応しくないと思う。 『それに引き換えルンは、遣ること為すこと意味深で、カッコいいよな』 アイツは仕事でもプライベートでも。とにかく人を驚かせて、笑顔にさせたい、ってコトに情熱を傾けてるヤツだ。 凄いと思う。尊敬できる。 ――俺もアイツが驚く写真撮って帰るぞ!って。 気負って雑誌に挟んであった取説を読もうとしたら。 『――英語じゃねえか』 ただ唯一MADE IN USAってトコだけは解った(笑)。 こんなもん。レバー回してフィルムが巻けたら、シャッター押せばいいんだよな…。って。やっぱりいい加減な俺。  貰った雑誌の方は、トイカメラで取った写真の特集。 こっちは一応、日本語だった。 魅力を書いてる紹介記事に目を通す。 ――海外のアーティストから火がつき、サブカルから、アートへと広がりを見せ始めたトイカメラは。 高い精度の写真を望まず、あくまでシャッターを押した時の偶然と、現像した時の偶然に、結果を任せる。 『おお!俺にぴったり!』 家から持って来たデジカメとか、凄い性能が沢山ついてるけど。正直使いこなせてないから。 載ってる写真も。広角を生かした、空と陸とを一緒に撮った写真が多くて。四隅はほんのり暗く色が沈んでるから、何となくアートな感じがする。 『俺もこんな写真撮りたいなあ』 まずは一枚。 フイルムの巻き取りレバーをぐるぐる回して、カウンターの数字を0から1に変えてから。 窓の外の雲海に、レンズを向けた。
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