玄い女神(ルン×サトリ)

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銀色の尾翼が煌めいて。 小野さんの乗った飛行機はぐんぐん小さくなって、冬の澄んだ青空の中に融けていく。 見えなくなるまで見送って満足した俺は。 『帰るか…』 ベルトに引っ掛けてた車のキーを抜いた。 どうせ此処まで来たなら、やっぱり外海見て帰るか、なんて考えてたら。 『――?』 デニムのポケットでスマホが震え始めて。腰を探って駐車場まで歩きながら相手も確かめずにとりあえず応答した。 「もしもし」 『――ルン君?』 ニノか。 「お疲れ。どした?」 『それはコッチのセリフです。ルン君今、移動往復2時間で。見送りたったの5分、とかいう献身的な愛に自己満足してる真っ最中かなあって思って』 「半分当たりで、半分ハズレだな。何だよ献身的な愛に自己満足って」 『まあいいです。どうでしたか、ビビター。小野さん反応良かったでしょ?』 あのアートカメラを教えてくれたのは、実はニノ。 小野さん時間があれば向こうでスケッチしたかったみたいだ、ってたまたま話をしてたら。 『絵は描けなくても、アート大好き小野さんが喜ぶブツがありますよ?』 って。Viviterのトイカメラを薦めてくれた。 「ああ、凄く喜んでくれてたと思う。アリガトな?」 『俺は情報提供しただけですよ。それよりルン君良く買いに行く時間ありましたね』  昨日1人の仕事の後、その足で閉店時間間際の下北のヴィレバンで買ってきた。 『ルン君の愛は献身で出来てるんですね』 「そうか?――かなり自分勝手だと思うぞ」 駐車場に戻って、エントリーして車の中に入る。 『自分勝手な人が仕事帰りにプレゼント買いに行ったり、早起きして高速乗って渡しに行ったりしないと思いますけど』 まだ1時間くらい前までかけてたエアコンの温もりが残ってたから、そのままで話を続ける。 「なあニノ、俺――メーワクなのかな…」 今年は押し付けがましいのはやめよう、って誓いを立てたつもりの俺は。 実は其処が凄く気になってた。 『らしくないコト言いますね。あの人、気に入らないモノは受け取らないと思いますよ?』 「確かに、そうだな…」 昨年末のブーツ事件を思い出す。 『まあ。いい写真撮って戻ってくるでしょうから』 写真口実にして、また食事に誘えばいいじゃないですか。って。 何から何まで今回はニノに段取りして貰ったな、って苦笑い。 「そうするよ。――アリガトウ」 『どーいたしまして』
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