玄い女神(ルン×サトリ)

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ルンに見送ってもらった成田にまた降り立つ。 あれから1週間も経ったなんて。 ――嘘みたいだ。 ニューデリー火曜21時発。 翌朝8時半成田着。 1月の日本の空は、碧く澄んで高くて。降り立った時に感じたひんやりした空気に。 『やっぱり日本の方が寒い』 って実感した。 1週間分の荷物にしては多分人よりずっと小さいスーツケースを、バゲージクレームでコンベアから持ち上げて。 『帰るか…』 って、地下の駅に向かいながらスマホの電源入れたら。 『ぅわ…』 何度か手の中で震えて。電源切ってた9時間の間に来ていたメールと電話の着暦が一挙表示。 家族と、友人と。颯君。 やっぱり…。 ――ルンの履歴は無い。 それはこの1週間。俺からも掛けなかったけどさ。 アイダちゃんやニノからだって、インド滞在中何回か電話やメールが来たのに。 アイツの名前はこの一週間の履歴スクロールしても、一回も出てこなかった。 面白く、ない。 でも確かに今電話やメール来ても困る。 結局俺。貰ったカメラで何写せた? ――土産探してる時に見つけた、鮮やかな色が目を引いたサリーの生地屋の写真とか。 道に寝てた白い牛とか。 壁が真っ黄色の家の前に座ってたおじいちゃんとか…。 日本とそう変わらない青空とか。 日本とそう変わらない夕焼けとか。 トイカメラは発色がビビットになるって雑誌に書いてあったから。 兎に角『色』が目についたらシャッター押すようにして。 最後の1日で夏休みの宿題終わらせた小学生みたいになって…。 正直ルンに合わす顔が、無い。 颯君に電話を掛けたときに。 カメラの件相談したら。 『サトリさん。とりあえず、全部フィルムを其処で使い切ってみようか』 『え?――勿体無いだろ…』 『コッチに戻って撮ったら、折角コノルンが持たせてくれた意味がそれこそなくなるよ?』 コノルンはいい写真を撮って来いって言ってるんじゃなくて。 サトリさんが其処で何を見て来たかを知りたいんじゃないの? だからね。ルールをひとつ決めて。どんどんシャッター押そう。 『解った…』 そのViviterて何が売りなの?って颯君に聞かれたから。 『プラスチックレンズで、現像した時の発色がいいんだって。フィルムもわざわざ、色が鮮やかになるもの選んでくれてるみたいだし』 じゃあ、色が目に付いたら、シャッターを押す、って一点押し、って言われたんだよ。
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