玄い女神(ルン×サトリ)

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『何だ、あの顔…』 小野さんの眉間の皺。朝っぱらから尋常じゃないぞ? スッゲェ何か、考えてる? それとも単に、眠いだけ? 帰国のロビーで出待ちみたいに待ってた俺は。 余りに険しい顔でスーツケース引っ張ってきた小野さん見て。 声掛けられなくて思わず見送りそうになった。 俺の目の前通ったのに、気付かれなかったくらい、やっぱり何か考え事してんのか? 慌てて下りのエスカレーターに乗った小野さんを追い駆けて。 「お帰り!!」 って少し後ろから声かけたら。 俺より華奢な肩が ――びく!!って動くのが解るくらい震えて。 「ルン――なんでココに居るんだよ。――見送りか?」 口元半笑いの微妙な表情で、恐々小野さんは振り返ってきた。 「見送りじゃねえよ…其処帰国フロアだろ?」 エスカレーターを歩いて降りながら近づいて、 「小野さんの、お出迎え」 お帰り。ってスーツケースの取っ手掴んだら。 「――ただいま…」 って。今度は小野さんはちょっと何か諦めたような顔になった。 怒ったり、困ったりしたのは良く見るのに、こんな顔見せたの初めてじゃないか? 少し不安になるけど。 「車で来てるから。家まで送るし――乗って行く?」 「――お願いしていいか?」 「勿論。そのために来たから」  「――あれ、そういえば俺ルンの車助手席乗るの、初めてか?」 なんて小野さんが言いながら、隣でシートベルトしてる。 「そうだっけ?」 って言う俺は実は初ドライブだってちゃんと意識してて。 ちゃんと今日のために洗車して中もキレイにしておいた。 Viviterのこともあって、来るのはギリギリまで迷ったけど。 やっぱり1秒でも早く逢いたいから。 あの話題は俺から出さない、って決めて来たのに。 「あ…、ルン。フィルム一本使い終わったんだ。何処かいい写真屋さん知ってる?」 現像出したいんだけど…色調処理とか色々直接相談したくて。なんてあっさり言われて。 「え?――あ、ああ!そっか、じゃあ代えのフィルムも付けとくんだったな…」 俺の杞憂は、何時の間にか、解決してたらしい。
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