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「――アスファルトなんかさあ、夏暑い時に融けて、足跡とかタイヤの轍の跡とか、瓶の蓋とか欠片とか、全部混ざったまま冬の時期固まってるから車乗っててもガタガタするくらいデコボコで。――あ。それも撮ったぞ」
あんまりキレイじゃないけどな。なんて。
東京へ向かう高速に乗った車中。俺は延々。助手席で喋り続けた。
ルンはハンドル握って前見たまま。
「へぇ…そうなんだ」
「すげぇな」
って。俺のなんてこと無い話に穏やかに相槌を返してくれるけど。
俺が一方的に話してるだけじゃあ。
ちょっと、物足りない。
「――なぁ…ルン?」
「ん?」
何で連絡、くれなかったんだ、って思わず口から飛び出しそうになって。
「…っ」
ドリンクホルダーの甘いラテに手を伸ばして。
一口含んでコトバごと飲み込んで。話題を無理矢理切り替えた。
「俺の家の前にさ。ルンの家、寄れる?」
「――え?何で?」
年末以来何度も誘われてたのに。一度も行ったコトなんか、無かったから。
俺の突然の心変わりに、ルンが訝しがるのも当然か。
「――お土産ルンのだけちょっとデッカイから。スタジオまで持っていくのも面倒だし」
「デッカイって何だよ…」
「まあ、小さいのも買ってきたけど。ルンだけふたつ――見送り来てくれたお礼だからさ」
「そっか。――アリガトな?」
って素直に言ってくれるのが。俺のなけなしの良心をきゅ、って絞られる気がして。
ひとつめの『おっきいお土産』は、行く前から決めてた妙にリアルでコワい宗教画で。見てた中でオレが一番コワいって思っちゃったものを選んだだけ。
もうひとつは現地の市場で捕まって。訳わかんないけどカワイイから買っちゃった、水晶でできた小さな置物。
正直そんなにお礼を言われるほどイイものじゃない。
って言うか、選び方としては、あとの三人よりルンのが一番いい加減かもしれない?
『――その分写真で』
って思ったのにコレも現像するまで結果わかんないし。
――やっぱりもうちょっと、ルンに会うにはココロの準備が必要だったよな…。なんて。
ルンに気付かれないようにひとつ。溜息をついた。
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