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空腹が満たされてひと息ついた頃。
「――じゃあ、そろそろ本題」
って。胡麻油塗ってある海苔を咥えてもぐもぐしながら。小野さんはさっき受け取った写真の入った袋を取り上げて見せてくるけど。
テーブルの上はは鉄板から跳ねた脂が、霧拭いたみたいに細かく飛んでるし、手だってちゃんと拭いてるけど心配だから。
「小野さん、汚すかも知れないからさ」
ソレやっぱり――俺の家で、見ない?
って。思い切って誘ってみた。
「――」
じーっと俺のコト疑り深い視線で見詰めてくる小野さん。
「何だよ」
「行くのはいいけど…」
「いいけど?」
「…なんでもない」
じゃあ、早く行って、早く帰るか。なんて独りごちてるけど。
――やっぱり俺、警戒されてる?
俺の家の中で一番お気に入りのソファに座った小野さんは。
大切にしたいんだって見てて解るくらい丁寧に取り出した写真を、膝の上にそっと重ねて置いた。
一番上の写真を、表面に手が触れないように、指先で角を挟むようにして持ち上げて手のひらに載せたら。
「――コレが、記念すべき一枚目」
って、俺に差し出してきた。
ちょっと寄り添って覗き込んだら。
写真の上半分は滑らかなグラデーションの水色に覆われてるけど。下半分は、手触りがモコモコした白い絨毯?って言うか、雪景色みたいだ。
「――ああ…コレ雲の上だ」
「うん。――空の色が凄くキレイだろ?」
ルンが選んでくれたフィルム、丁度青がキレイに出るモノだったから。現像するときも、青を強調してもらえるように頼んでおいたんだ。
「――それでさ。一枚目は。行きのヒコーキで撮ったんだけど…」
って。二枚目に見せてくれた写真は。
黒?というか濃い灰色の背景に。緑や青のガラスの欠片や、瓶の蓋がめり込んでる。
太い縄模様みたいなタイヤの轍と、小野さんのブーツの爪先が二つ下のほうに写ってたから。
「ああ、コレは。前話してくれた、アスファルトだな?」
え?――俺話したっけ?なんて言う小野さん。
「あのさ。実はコレより後は。全部帰る日に撮ったんだ…」
ニノから『撮れてないみたい』とは聞いてたけど。
「そうなの?」
って俺は初めて聞いたフリをする。
「――うん。何撮ったらいいのか、迷った挙句解んなくなっちゃってさ…」
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